Don't Leave me 第三章・16



初めての心と体を残酷に引き裂き、アシェンの人生に消えない汚れを付けたあの魔物。
あれがバベル、もしくはバベルの放った魔物。
この間の彼の言い口からして、ジラルドに何か良くない頼みごとをしようとしているのは間違いない。
たまたまジラルドの側にいたアシェンを気慰みに傷付けた、そう考えれば全ての辻褄は合う。
「…………そんな風に、考えていたのか……」
よほど驚いたのか、かすれた声でジラルドが言う。
心なしか瞳を伏せた彼に、アシェンは泣きながらこう頼んだ。
「ジラルドさ…………おねが、や、優しく、して…………怖いよ……今日のジラルドさん、怖いっ……」
飢えて乾いた獣のように、残酷にこの体を嬲る男はアシェンの知るいつもの彼ではないように思えた。
理由もよく分からないままバベルにいたぶられて、助けてくれるはずのジラルドまでこうではアシェンはどうしたらいいのだ。
「僕…………、ごめんなさい、迷惑、分かってるから……それに、バベルさ、僕、したかもしれないけど…っ…」
最初の時のことを思い出そうとすると、まだアシェンの心は激しい拒否反応を示す。
けれどジラルドがそんなに言うのなら、あれがバベルだったのか思い出さないといけないのだろうか。
そう思って記憶を辿ろうとしても、やっぱりあの魔物が何者だったのか分からない。
思い出せるのは恐怖と苦痛、恥辱、そしてそんな中でも感じてしまった淫らな快楽だけ。
「わ、分からない、見えなくて、僕っ……!」
しゃくり上げながら必死にしゃべる小さな体を、ジラルドはたまらなくなったようにぎゅっと抱き締めた。
「…………済まない。本当に済まなかった」
震える体を抱き締めるその腕には冷たい汗が浮いている。
噛まれた背に再び唇が触れる感触がして、アシェンはびくっとした。
だが皮膚を裂く牙も、血をすする舌もそれに続くことはない。
労わりを込めた優しい口付けをされた部位からはいつしか痛みも消え、それにつれてアシェンの心も落ち着いていった。
赤子をあやすかのようにしばらくその体を抱いていたジラルドは、やがて涙も収まったアシェンを敷布の上に横たえた。
「…………ん、んっ……」
体の中にまだ入ったままだった彼のものが引き抜かれていく感触に思わず声が出てしまう。
そんなアシェンを見つめるジラルドの赤い瞳は、とても優しかった。
「オレが悪かった」
心を込めて一言謝罪してから、彼はゆっくりと身を屈めて来る。
「アシェンは何も悪くない。済まない。もうひどいことをしないから、お願いだ。オレを怖がらないでくれ…」
そうささやきかけた唇が、アシェンのそれにそっと触れる。
激しさのない、ただただ甘い口付けにアシェンは塞がれた喉の奥から小さなあえぎを漏らした。
「あ、んっ…………、ジラルドさん……」
切ない息を吐いたその唇にもう一度ちゅっ、と軽く唇を合わせてから、ジラルドはアシェンの寝巻きに触れる。
ぐしゃぐしゃになったまま肩までたくし上げられた状態のそれを、彼は慎重な手付きで少年の体から取り去った。
全裸になったアシェンの胸は、これから起こることへの不安と期待に高鳴り始めている。
薄く上下するその胸元、まだ芯を残した乳首にジラルドは触れた。
「んっ……」
乳頭を指の腹で撫でられ、くすぐったいような痺れにアシェンは顔を横に背けた。
可愛らしいしぐさに瞳を細め、ジラルドは珊瑚の色をしたとがりを唇に含む。
「あっ、あっ……! あん……」
強く吸われ、舐めねぶられると愛撫されていない方の乳首までつんと硬くなった。
それを目の端で察したジラルドは、今度はそちら側を口に含んだ。
「はぅ……っ、ん、あぁ、ジラルドさんっ…………」
両方の乳首を交互に攻められると、そのたびアシェンは声を上げて身をよじる。
しかし途中で、そういえば家族はどうしているのだろうと思い当った。
慌てて口元を覆ったアシェンに、ジラルドは優しい声で言った。
「大丈夫だ…………事前に準備をしてある。お前の家は今オレの結界の中。誰にも入れず、そもそも普通の人間の目には認識することが出来ない……」
人ならざる三つ目の瞳を持つ男はそう言って、存分に舐めねぶった乳首から更に下へと体をずらしていった。


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