Don't Leave me 第四章・11



それは一度出したばかりとは思えないほど凶悪な硬さと太さを持ち、血管を浮かせてどくどくと脈打っていた。
握った男根を彼は、アシェンの尻肉の狭間辺りに先を当てた状態で自ら扱き始める。
「あっ、ああっ……」
つるりとした独特の感触に驚いたのも束の間のこと。
指で犯される快楽に、アシェンの意識はすぐに引き戻されてしまう。
「あっ、あっ、ああん、ああ…………ッ」
あえぐアシェンの声に合わせ、ジラルドは忙しなく肉棒を握り上下に擦った。
「あっ、あっ…………あああ…………っ……」
指による四度目の絶頂を迎えたアシェンが、ぐったりと敷布の上に体を投げ出す。
一拍遅れ、ジラルドのものから飛び出した精液がその肌の上に降り注いだ。
「あああ、あ……っ…………や、あ……」
尻を中心に背や太股に叩き付けられる熱い液体に、アシェンはぶるぶると身を震わせる。
粘つく体液が緩慢に肌を流れる感触と、生臭い匂いにさえ性感を刺激される思いだった。
自身も突っ伏した敷布の上にすっかり薄くなった精液を放出し、しばらくの間余韻に浸る。
どれぐらい経っただろう。
そっと肩に触れてくる感触に、アシェンはびくっとして顔だけ振り向いた。
「………すまない」
自分の着衣の乱れを簡単に直したジラルドの、ひどく暗い表情がそこにある。
「目を閉じていてくれ。今、何とかする…」
全身彼の精にまみれ、ぐしゃぐしゃになった状態のことを言っているのだろう。
言われた通りに目を閉じると、何か得体の知れない力がさあっと全身を撫でていくのを感じた。
肌に張り付き、乾き始めていた精液の感触が消えていく。
漏れ出すほどに中に吐き出された精液さえ、ジラルドの力によって洗い清められてしまったようだった。
さっぱりした気持ちになるはずだ。
なのに、何となく寂しさも覚えてしまうのはどうしてなのだろう。
「……ありがと、ジラルドさん……」
彼の欲望の証は消えても、彼に抱かれた余韻はまだ残っている。
そのために礼の声もどこか気だるげになってしまうアシェンの、柔らかな茶色い髪をジラルドは労るようにそっと撫でた。
「何も、聞かないんだな………お前は」
思わず、といった風に言ったジラルドは、アシェンの頭に手を置いて動きを止めた。
露骨にしまったという表情をするのがおかしくて、アシェンは口元に微笑みを浮かべる。
「うん、だって…………僕、ジラルドさんに、迷惑かけてばっかりだもん………」
優しくて口下手な命の恩人。
隠し事をしていることを隠せない不器用な彼を、どうして責めたり出来るだろう。
「それに、あの………気持ち、良かった、から」
ついでのように付け加えた言葉に、後から真っ赤になる。
ジラルドだってひどいやり方をしたと思ったから謝ってくれたのだろうに。
まるで手ひどい扱いを喜ぶようなことを言ってしまったのが恥ずかしくて、アシェンはしどろもどろになってこう付け加えた。
「あの、あのね………その、こういうのが、いい訳じゃなくて………あっ、の、ジラルドさん、上手だから、その……」
あなたにされることならば、なんでもきっと気持ちいいと。
そう言うことが出来ればどんなに簡単だろう。
けれどそんなことは言えない。
自分勝手な想いを押し付けたらきっと迷惑がられる。
…………もう、こんな風に会ってくれることもなくなってしまうかもしれない。
ジラルドの顔を見ていられなくなってきて、アシェンはまた顔を敷布に伏せた。
「アシェン………」
恥ずかしがっていると思ったのだろう。
優しい声でアシェンを呼んだジラルドは、またゆっくりと頭を撫で始めた。
「悪かった。もう、こんなことはしない……」
細い髪を梳くようにしながらつぶやく声には真摯な響きがあった。
「それと………多分まだしばらくは、オレはいたりいなかったりすると思う。けれど安心してくれ。お前にバベルやエルゼがまた危害を加えるようなことはない。約束する」
誓う言葉は力強く、誠実な想いに満ちている。
嬉しいと思う反面、胸のどこかがきゅっと痛んだ。


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