付ける薬もないぐらい・2



今更過ぎる気遣いに余計苛々して、クルーガーは再び怒鳴った。
「お前に手間がかかるのはいつものことだ! ぐだぐだ言わないで見せろ、ほらっ……!」
ルーンの腕を掴み上げ、勢いでかろうじて細い体を覆っていた服を剥ぎ取る。
あッ、と驚いた声を上げたルーンの体を見た途端、クルーガーはぎょっとして動きを止めてしまった。
…………ルーンに胸がある。
いや人間誰でも胸はあるが、ルーンは少年のはず。
柔らかそうにふくらんで揺れる、大きな二つの乳房はどう見ても女性のそれだった。
「……ご、ご、ご、ごめん、なさい…………」
がたがた震えながらつぶやくルーンの声が、ひどく遠くから聞こえて来る気がした。




頭を抱えているクルーガーに、とにかく自分の部屋に行けと言われたルーンは絶望的な気分で自室のベッドに座っていた。
西の森に足を踏み入れたのは今朝早くのこと。
何かないかとうろうろしている最中、茂みが鳴るざっ、という音がしたと思ったらもう次の瞬間ルーンは怪物の触手に絡め取られた状態だったのだ。
叫ぼうと開いた口に一本の触手が入り込んできた、そこまではちゃんと覚えている。
だがその後のことは曖昧で、体に出来た傷も引き裂かれた服も記憶にない。
今は体中ひりひりして痛いが、捕まっていた時は痛いという感覚はなくむしろ気持ちが良かったような気さえする。
ただ、ともすれば眠るように失われていく意識の中、必死になって抵抗していたことだけは確かだ。
闇雲に抵抗し続けていたら、薬草を刈るために持って来ていた小さな鎌が偶然怪物の体に突き刺さった。
まさかルーンがそんな抵抗をするとは思っていなかったのだろう。
奇声を発して悶絶する怪物から、こけつまろびつしながらようやく逃げ延びこの小屋へと戻って来た。
途中どうも体の調子がおかしい、と思って自分を見下ろすと……先程クルーガーも驚いた通り、両胸は完全に女性のものになり大きくふくらんでいたというわけだ。
「…………う、う……」
いまだ収まらない混乱のため、ルーンの目からはぽろぽろと涙が零れる。
胸の変化にも驚いたが、それより問題なのは下肢だった。
男性器はちゃんとある。
だがその奥に、ルーンの乏しい知識ではそれが本物かどうか確認することさえ不可能な女性器があるようなのだ。
そして二つの性器からは、とろとろと体液があふれ出している。
これが何を意味しているのか分からないルーンは、がたがた震えることしか出来ない。
「ししょ…………、師匠、ごめんなさい、ごめんなさい……」
どうすることも出来ず、うわごとのような声を漏らすルーンの耳に扉が開く音が聞こえた。
はっとしてそちらを見れば、無表情のクルーガーが立っている。
何か調べ物をしていたらしく、その手には古い書物が何冊か抱えられていた。
「何だその格好は」
じろりとひとにらみされ、ルーンは慌てて服の前をかき合わせる。
とりあえず体を拭いて、大きな怪我がないことだけは確かめた。
その後服を出して着替えたのだが、困ったことにふくらんだ胸が大きすぎる。
すっぽり被るような服はそこでつかえるし、前で留めるようになっているものは留まらない。
やむなくまだ着られるだけましな前をボタンで留める上着を羽織っているのだが、手で押さえていないと胸が丸見えになってしまうのだ。
「…………と、と、留まらない……」
あわあわしながらルーンが言うと、クルーガーが大きなため息を吐くのが聞こえた。
「怪我は?」
「い、痛くないです……」
「大きな、治療が必要なような怪我か」
「いえ、いえ、痛くないです……」
あまり噛み合っていない会話に、クルーガーは舌打ちする。
「見た方が早そうだな」
瞬間きょとんとしたルーンに、彼は短く命じた。
「脱いでそこに横になれ」
「え、え、え、えええええええ!?」


←1へ   3へ→
←topへ