付ける薬もないぐらい 番外編・4



「や……っ、あぁ、やぁ、だめっ…………!」
ルーンの抵抗すら楽しむように、男のものが割れ目の上を上下になぞる。
亀頭の先を敏感な肉豆にこすり付けられ、卑猥な感触にぶるぶると体が震えた。
「やっ、やっ……!」
逃れようと腰を引いても、すかさず追ってきた肉棒が濡れた肉の口に押し当てられた。
くちゅ、といやらしい音をさせながら、怒張が中に入ってこようとする。
「やだあ! やだっ、師匠、師匠ッ……………!」
目隠しの布に涙を染ませながら、ルーンは無我夢中で声を上げた。
「師匠……っ……! 師匠、ししょお……! やだ、師匠じゃなきゃやだぁ!」
叫びに一瞬、体を押さえていた手が緩む。
だがそれに気付かず、ルーンは全力でこう言い続けた。
「やだ師匠、ごめんなさい、助けて、やだあ、入れちゃだめーっ…………!」
全ての力を振り絞り、闇雲に叫びながら動かせるところを全部動かしてみる。
そうしたら右足の先が何かに当たった。
「いてっ!」
驚いたように上がった声は間違いなくクルーガーのもの。
折良く暴れてずれた目隠し布の向こう側に、しかめ面の師の顔をルーンは見付けた。
「し、ししょ………っ」
「ってえな、この」
頬の辺りを蹴られたらしく、顔をさすっているクルーガーを見て全身の力が抜けた。
やっぱり彼だった。
ほうっと息を吐いた瞬間、目尻に溜まっていた涙がこぼれ落ちる。
「し、ししょお、良かった、良かったよおぉぉぉ」
安堵の余り、さっきより余計に泣いている弟子を見てクルーガーは深々とため息を吐いた。
「全く………だが、どうだ。怖い目に遭ってちょっとは反省したか?」
ぼさぼさの髪をうっとうしそうに払って、彼は乱れた姿の弟子を見下ろした。
「は……、反省、って……?」
案の定分かっていない様子のルーンに、クルーガーはもう一度ため息を吐いた。
そして忌々しそうに、ある少年の名を口にする。
「…………この間のヒースとの一件忘れたのか」
恐ろしい思い出と結び付いたがき大将の名前に、ルーンはぶんぶんと大きく首を振った。
忘れてなどいない。
集団で犯されかけたあの忌まわしい記憶は、普段は非常に忘れっぽいルーンの頭にも深々と刻み込まれていた。
今までなら村に回診に行くクルーガーに、ルーンは必ず付いて行きたがったのだ。
しかしここ最近は自主的に留守番をしている。
村へ行ったらきっと、またあの時のことを思い出してしまうから。
……きっとまたヒースたちにからかわれて、同じようなことをされてしまうから……
「思い出すのが嫌だろうから黙っていたが、あいつらたまにこの小屋の周りに来てるんだ」
「えっ?」
ぎょっとするルーンの向こう、閉ざされた窓の辺りに目をやってクルーガーは苦い顔をした。
「お前の部屋を覗き込もうとしたりな。あのガキゃ痛い目見せてやったのにちっとも懲りちゃいねえ。あいつの親父にも軽く注意はしといたんだが、ヒース以外のガキどもも勝手に人の家の周りをちょろちょろ……」
「師匠!」
いきなりのルーンの大声にクルーガーが今度はぎょっとした顔になる。
「な、何だよ」
「師匠ごめんなさい! オレ、オレちっとも気付かなくて、胸とか丸出しで、時々全然何も着てなかったりして、本当にごめんなさい…………!」
自分とクルーガー以外ここには誰もいない。
そうたかを括っていたが、どうやらヒースたちはあの一件に味を占めてしまったようだ。
あっちが来ないのならばこっちが行ってやろう。
大方そんなことを思って、盛りの付いた犬のように小屋の周りをうろうろしていたのだろう。
そうとも知らず、窓全開で寝汚く眠りこけていたらどうなるか。
今回クルーガーにされたような、縛られ目隠しをされての行為を本当に彼らにされていた可能性だってあるのだ。
改めて恐怖と、そしてクルーガーへの感謝と謝罪の念がわき起こる。
「………………まあ、そういうことだけどな。でもオレも悪かったよ。下手に怯えさせちゃいかんと思って教えなかったが、知らなきゃ自己防衛も出来ないしな」


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