要姫・10
「んん、んん、んぅーっ…………!」
悲鳴を出すことも許されず、ナイアは彼の精子を最後の一滴まで吐き出されてしまった。
「ふあっ、は、はっ、ひ、ひどいっ…………」
やっと口付けから解放されたナイアは、涙声でつぶやいた。
「わた、私……こんなに…………赤ちゃん、出来ちゃう…………」
ぽろぽろと涙を零すナイアの髪に、額に、アレクシは愛しそうに口付けを落とす。
そうしながら彼は、処女を奪ったばかりの最愛の巫女姫の耳元に嬉しそうにささやいた。
「赤ん坊……いいですね。あなたと私の子供…………きっと、とても可愛いでしょう」
その、とても自分を犯したばかりとは思えない口調にナイアはぎくりと身を強張らせる。
「ア、アレクシ様……、私…………そんな……あっ」
ぬちゃりと音を立て、幾分萎えたアレクシのものがナイアの中をゆっくりとかき混ぜる。
達したばかりで敏感になったそこを、彼は挿入したままの男根でやわやわと刺激し始めた。
「可愛いでしょうね、私とあなたの子…………バルトフェルトは私とあなたのために、美しい宮を用意して下さるそうです。そこで親子三人、いつまでも仲良く暮らしましょう」
うっとりと語る瞳がナイアを覗き込む。
透明に澄んだ、美しい緑の瞳。
潰された目では決して知ることのなかったはずのきれいな色。
要の神殿に仕える者たちは、醜い傷を負わされ王に嫌われたアレクシを避けていた。
けれど今の彼の姿を見れば、女性であればたちどころに過去の己の所業を後悔するに違いない。
誰よりも気高く整った容姿と、自分への愛情を併せ持った理想の騎士。
乙女ならば誰もがあこがれる、今のアレクシはまさにそんな存在だった。
だけど、澄み切ったその目の奥にナイアは見付けてしまった。
非の打ち所のない美青年の中に隠された醜悪な情念の炎。
仮面の騎士として皆から距離を置かれながらも、いつも控えめで優しかった彼からは決して感じられなかった嫌悪感。
「や……」
怖い。
「何を怯えているのです、ナイア様」
身を竦ませるナイアに気付いたらしい。
含み笑いをしたクラウディオが、繋がったままの二人を上から見下ろして笑った。
「アレクシ殿のおっしゃる通りですよ。我が国にはあなた方を迎える用意をすでに整えてある」
すう、と彼は瞳を細める。
「ですからあなたも、いい加減諦めてしまいなさい……瞳を取り戻し、処女性を失ったあなたにはもう要姫の力はないに等しい」
誘惑するように甘い声。
アレクシにゆるゆると全身を愛撫されているナイアの耳から、彼の声は心の中にまで忍び入って来るようだった。
「ランクーガ王に義理立てすることなどないでしょう…………あなたはあなたの幸せだけを、考えていればよろしい。永遠に……」
甘い甘い、腐り落ちる果実のように甘い声。
耳の後ろを這うアレクシの舌にも惑わされ、ナイアは一瞬つぶらな瞳を閉じてしまいかけた。
しかし、汚されてなおその身の奥に残された何かが叫んだ。
いけない。
閉じかけた目を見開いた瞬間、ナイアは見た。
暗示にかけるように細められたクラウディオの瞳の奥。
アレクシの瞳の奥にあるのと同じ、醜い炎を。
瞬間的に巫女姫は理解した。
アレクシを変えたのは、この男だと。
そう思った次の瞬間、犯され打ち震えるばかりだった全身がかっと熱を持った。
「なにッ」
「! ナイア様っ……!」
清浄な光がナイアの体を輝かせる。
乱れた白い髪が銀色に燃え上がったような錯覚と、錯覚ではない熱い痛みが二人の男の全身を打った。
「く、うっ……!」
アレクシは顔を庇い、ナイアから離れて片膝をついている。
クラウディオも思わず何歩か後ずさり、長衣の裾で素早く顔を覆った。
「理術師クラウディオ! あ、あなたの思い通りにさせはしない……!」
かろうじて上体を起こし、ナイアは声を張り上げる。
「惑わされはしません…………! ラ、ランクーガの民を、守るために、私っ……、あッ!」
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