要姫・14
王がナイアに飽きて来たことに加え、いかに処女を守ったとはいえそれ以外のしていないことはないぐらいの狂乱の日々を過ごしたのだ。
ふしだらな振る舞いは神の怒りに触れたのだろう。
歴代随一とも言われていたナイアの巫女としての力は明らかに衰えていた。
だからランクーガ王は、神官たちに命じてナイアの目を潰させた。
五感の一つを神に捧げることにより、聖なる加護が増すことを狙ったのだ。
狡猾な王の読みは当たり、ナイアは表向き完璧な要姫として神殿に入った。
「ナイア様…………」
想像以上の告白だったのだろう。
呆然としたアレクシの呼び声を聞いても、理術により枷を外されたナイアの唇は止まらない。
「わた、私っ、アレクシ様の、ことぉ…………!」
自分の名を呼ばれたことに驚いて、アレクシは驚いた顔になった。
彼の反応にも最早意識が及ばぬまま、泣きじゃくるナイアの告白は続く。
「……こんな、私を…………守って……優しくて……、ずっと、ずっといっしょに、このまま、いられたらって…………」
鉄仮面に顔を覆われた不運の騎士。
要の神殿内にもアレクシの名、及びその功績とここに至る経緯は届いていた。
しかし自らも望んで外界からの情報を遮断していたナイアにとっては、ここに来てからの彼が全て。
仮面の騎士はナイアにいつも、本物の優しさで接してくれた。
要姫として崇められる一方で、現王そのものが要の巫女をあのように扱ったのだ。
神殿内にいる者たちは、何らかの理由で王宮を追われた者が大半。
要の巫女の世話など、自分は望んで焼いているわけではない。
目が見えないから分からないとでも思ったのか。
言葉の端々、しぐさの端々に現れる彼らのそんな不満を知りながらナイアは何も言わなかった。
自分だって望んで要姫になったわけではない。
それにこの体は、処女であることを誇るのが馬鹿げているほどに穢れているのだ。
人にかしずかれる価値などありはしないことは、自分が一番よく知っている。
水の音ばかりが雄弁な静かな神殿で、残りの一生を神に、国に、民に捧げよう。
それが役立たずな半端物に出来るせめてのことなのだと、ずっと自分に言い聞かせていたのに。
きれいでいたいと思ってしまった。
せめてアレクシの前でだけは、要姫という麗しい呼称に相応しい自分でいたいと。
「なのに……ッ、私、私っ……、もう…………!」
全ての感情を吐き出しきったナイアの喉からは、最早嗚咽が漏れるのみ。
肉体的に犯されるのとはまた違う、精神を強制的に露出させられた恥辱に死にたいと本気で願った。
分かっている。
自分が悪いのだ。
汚れた過去を押し隠し、アレクシを側にはべらせていい気になっていた。
クラウディオの放つ理術はきっかけに過ぎない。
彼はナイアの過去を捏造したわけではない。
恥ずべき過去をなかったように振る舞って、清楚な要姫を演じていた報いを受ける時が来たのだ。
「…………ごめんなさい、ごめんなさい、アレクシ様……っ」
尻を上げたみじめな格好のまま、長い髪を床に垂らして泣きじゃくるナイア。
その背後でアレクシが動いた。
「…………あ」
熱が逃げていく。
押し付けられていた男根が女陰を離れたのだ。
頭を垂れたまま、ナイアは堪らなくなってぎゅうっと目をつぶった。
分かっていてもつらい。
嫌われてしまった。
彼はこの体に執着する理由を失い、唾を吐き捨て離れていこうとしている。
そう思った矢先のことだった。
一度離れたはずの熱が、別のところに押し当てられる。
「ひっ……!? あ、ああーっ…………!?」
片手で腰を掴まれ、片手で尻肉を割り広げられた。
そのまま一息に、後ろの穴を貫かれる衝撃に息を呑む。
「ア、アレクシ……ッ、な、なんでっ、ああ、だ、だめっ……!」
瞳を見開き、大きく声を上げたナイアの上に乗りかかったアレクシはその耳に熱っぽくささやきかけた。
「ナイア様……私は今、とてつもなく嬉しく、とてつもなくみじめで、とてつもない怒りでいっぱいです…………」
様々な感情を秘めた暗い声。
深々とナイアの後ろを犯したまま、彼はその声でささやき続ける。
「あなたが私を、そのように想って下さっていたとは…………嬉しいです。美しい巫女姫、一目見た時からお慕いしておりました」
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