要姫・15
流れる白い髪を指先ですくい、アレクシは軽く腰を揺らした。
途端に走った強い性感に、ナイアはびくびくと身をよじる。
思わぬ彼の反応を問い返したい。
なのに、いやらしい肉体はそれより先に与えられる快楽に流されてしまった。
「……はっ、んッ…………アレクシ、さまぁ…………」
身悶える白い体には、まだ巫女の衣装がまとわりついている。
清楚な美貌を引き立てる服装とは裏腹に、わずかな動きにもひくつく内部の動きは娼婦もかくやとばかり。
幾人もの男たちに躾られ、幾人もの男たちを魅了してきた肉体。
それをありありと伺わせる反応に、アレクシは無言で強く腰を押し出した。
「ひゃんっ……、あ、あ……! ……ああっ、……めぇ、だめぇ…………!」
桃色の舌を突き出し、快楽に耐えるナイアの尻を彼は容赦のない力で征服していく。
自分も次第に息を荒げていきながら、アレクシはナイアを見下ろしてこう言った。
「僭越ながら、私は今まで女性に不自由したことがない……ですが女性が私を求めるのはせいぜい顔の皮一枚のこと、どこか軽蔑すらしておりました。王妃様の気を無用に引いてしまったのも、王の嫉妬をかったのもこの顔のせいかとも…………」
美しい顔立ちに複雑な影を落とし、彼はつぶやく。
誠実な性格と能力を持つアレクシは、それだけで十分に立派な騎士だった。
だが天は、彼に優れた容姿をも与えた。
女性たちは何もかもを兼ね備えた理想の騎士と偶像化し、アレクシの気持ちも考えずに追いかけ回す。
男性同僚たちはそんなアレクシを、程度の差こそあれやっかみの目で見ていた。
だから彼が王妃に気に入られ、王の嫉妬をかった時も庇ってくれるような者はいなかった。
顔を焼かれて神殿へ追い払われた不幸な騎士に、他の騎士たちはむしろ溜飲を下げたぐらいだ。
ようやく目障りな奴がいなくなった。
かつての仲間たちが酔っ払ってそう騒ぐのを偶然聞いても、アレクシは仮面に覆われた顔をうつむかせることしか出来ない。
王は彼の顔を手酷く焼いた。
失明こそ免れはしたものの、無情な炎はその涙腺の出口すら焼いてしまっていたのだ。
聡明で高潔な素晴らしき騎士。
時に嫉妬の目で見つめられながら、常に賞賛の中にいたアレクシにとっては耐え難い日々が続いた。
つらい毎日の中、しかしアレクシは自分と立場は違えど同じような孤独に耐える相手を知る。
美しい要の巫女姫、ナイア。
両性具有のその存在に、当初は正直偏見の目を持っていた。
だが神殿内の誰もがあまり近付きたがらない仮面の異相の自分に対し、主たる要姫だけはごく当たり前に接してくれる。
無論、ナイアの目が見えないせいもあるだろう。
神殿に収められて長く、外界を知らぬせいもあるだろう。
けれどナイアはいつも慎ましく、不平も言わず、黙々と与えられた責務をまっとうし続ける。
清潔な容姿に相応しい清潔な心根は、アレクシの目にひどく新鮮なものとして映った。
「あなたに出会って初めて思いました。焼かれる前の顔に戻りたい、完璧な騎士としてあなたの前に立ちたい、と…………」
相手はランクーガの守護を担う要の姫。
自分などが汚していい存在ではない。
分かっていても、無垢な笑顔を向けられるたびに想いは募る。
そしてそのたび、ランクーガ王への憎しみは募った。
こうして顔を焼かれなければ、自分はナイアと会うことはなかっただろう。
だが、もしもこの顔を焼かれていなければ。
美しい巫女姫は、もしかすると他の女性たちのように自分を想ってくれるのではないか。
自分もまた堂々と、ナイアに求愛出来るのではないか。
虚しい物思いは次第次第に、アレクシの胸の中に降り積もっていった。
「だから私はクラウディオ殿の誘いを受けた。最早この国に未練などない。私を、あなたを傷付け搾取するばかりの国など、王など滅びてしまえばいいと……! ……だが…………!」
ぎりぎりと奥歯を噛んで、アレクシはきつくナイアの腰を掴む。
「……あッ…………!? あっ、あーっっっ…………!」
哀愁と憎悪のこもった彼の声に呑まれていたナイアの中に、熱い肉棒が奥底まで打ち込まれた。
「あっ、アレクシ様ッあんっ……! や、は、激し……っ」
ずんと貫かれた余韻に震える暇もなく、先端ぎりぎりが残る程度まで抜かれる。
そうかと思うとまた奥まで犯されるを繰り返されて、ナイアの意識はまた快楽に染まり始めた。
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