要姫・17
その能力に相応しい、静かな自信に満ちた言葉。
しかし今彼が語るのは、長く仕えて来た国家崩壊の脚本。
「あなたは私のものになり、巫女の力を失った。愚かな王とその側近は要の神殿に頼りきりで、王宮内にろくな兵力を置いていない。すぐに片は付くでしょう」
「すでに私の部下たちも、着々と行動を開始しておりますからね」
アレクシの声に合わせ、言ったのは薄笑いを浮かべたクラウディオである。
「ナイア様にもよくご覧頂きましょう。あなたを苦しめて来たランクーガの、王の最期をね。この国が陥落した暁には、我がバルトフェルトの統一による素晴らしき楽園が築かれることでしょう」
さらりと述べられる二人の言葉。
その全てがナイアの心を殴打する。
ランクーガ陥落。
バルトフェルトによる統一。
要姫に守られた聖なる最後の砦の存在により、かろうじて阻まれていた帝国の一国支配が完成する。
訪れるのは間違いなく、阿鼻叫喚の大量虐殺。
肉体的な死のみならず、国家を、思想を、民族を、強大で傲慢な帝国は一飲みにしてしまうだろう。
要の巫女姫として過ごして来た身には、例えその資格を失おうが到底見過ごせるはずがない事態。
「そ、そん、なッ…………ああ、あああっ!」
反射的に上げかけた声は、だがあっという間に塞がれてしまう。
膣を男根で犯しながら、アレクシは指で後ろの穴を突いて来たのだ。
王の執拗な調教に慣らされた肉は、何かを入れられた瞬間思考停止してしまう。
「あ…………はっ、は、あ…………ッ」
まだ残る痛みと、知り過ぎた強い快楽。
その両方に前後から挟まれて、煩悶するナイアの耳にアレクシの声が甘く響いた。
「少しだけお待ち下さい、ナイア様…………すぐにランクーガを陥落させ、あなたをこの地下牢から連れ出して差し上げます…………」
ぐちゅぐちゅと音を立て、両の穴をこね回すその目にはナイアを怯えさせたあの光にぎらぎらと輝いていた。
「クラウディオ殿の力を受け、私も理術を少し扱えるようになりました…………ふふ、王がどんな風にあなたを犯したかは存じませんが…………奴のことなど二度と思い出さないぐらい、満足させて差し上げますからね……」
ナイアの背筋を戦慄が走る。
恐怖と甘さがない交ぜになったその感覚を、淫らな肉体は快楽に変換してしまったようだった。
「…………あ、あッ…………アレクシさま…………っ!」
底なしの自己嫌悪に落ち込みながらも、官能は頂点を目指して駆け登る。
二つの性器から体液を吹いて、ナイアはひくひくと全身を震わせながら床に突っ伏した。
「ん、あ…………」
快楽の余韻が冷めない。
両の瞳からとめどなくあふれる涙も、何のためのものなのか自分でよく分からなかった。
「愛しい、我が花嫁」
強過ぎる思いに震える声で、アレクシは巫女姫を呼ぶ。
壊れ物を扱う仕草でそっと細い体を抱き上げ、半開きの唇に優しい誓約の口付けをした。
「必ず幸せにしてみせます、ナイア様……さあ、参りましょう」
そう言って彼は、ナイアを抱いて立ち上がる。
遂に想い人を我が手に抱いたその姿は、威風堂々とした正しく理想の騎士。
クラウディオもそんなアレクシを見て、にこやかに微笑んだ。
「美しい姫君と騎士は、物語の最後には結ばれるものと決まっておりますからね。素晴らしい。なんとよく出来たお話だ、ははは」
軽やかに笑う理術師の声が、死者に満たされた神殿の中に響き渡る。
アレクシの腕に無力に抱かれながら、ナイアは彼に再生された目を静かに閉じた。
〈終わり〉
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