要姫 第二章・14



「ナイア様」
気遣わしげな声を出したのはアレクシである。
「混乱されているのですね。お気の毒に」
まるで不自然な反応をしているのはナイアの方だと言わんばかりだ。
更に不自然な彼の反応にナイアは顔を強張らせるが、アレクシは優しい声で続けた。
「さあ、今日はもうお休み下さい。ご安心を、見張りの兵士は倍増しました。クラウディオ殿も理術の警戒網を設置するとおっしゃってくれている。ソーンも間もなく捕まりましょう」
とうとう彼はソーンを呼び捨てにした。
「ソ、ソーン将軍のおっしゃったこと、アレクシ様はどうお考えなのですか」
ナイアは必死の思いで食い下がった。
「アレクシ様、クラウディオは私たちの幸せになど興味を持ってはいないのです! この男の頭にあるのはバルトフェルトと自分の野望の達成だけ。お願いです、もう一度考えてみて下さい。ソーン将軍は」
「ずいぶんソーン将軍のことを庇われる」
冷たい声が必死の声を遮って響く。
びくりとしたナイアの目を、アレクシの緑の瞳がまっすぐに射た。
「あなたは要の神殿にずっと閉じこめられていたはず。辺境の守りについていたソーン将軍と、面識があった訳ではありませんよね」
王にとってソーンは口うるさい厄介者。
アレクシのように公然と追い払うことは出来なくても、だからといって側に置いておきたいわけではない。
だから王はソーンを辺境に配置し、そこの守りを任せていた。
当然王宮の地下に配された要姫と親交を結べるはずがない。
けれどだからこそ、アレクシは苛立っているようだった。
「あの男はあなたに何をしたのです?」
「な…………何も」
強いて言えば殺されかけたが、もちろんアレクシはそんなことを気にしているわけではなかった。
「――調べなければ」
低い声と同時に腕が伸びてくる。
あっという間に寝台に押さえ付けられ、ナイアは動転して思わず叫んだ。
「い、いやっ、違う! アレクシ様、あなたが心配するようなことは何もッ、あっ!」
アレクシはナイアの言葉に耳を貸す様子すら見せない。
ただ暴れる体をうるさそうに片手で押さえ込み、片手でせっかく着せ付けてくれた衣服を引き裂いた。
「分かるものですか。あなたのように美しい方を前にして、正気でいられる男の方が少ない。まして……」
内股に潜った指が、ぬめりを残した女性器に触れる。
「んっ……!」
服こそ着せてくれたものの、アレクシは相変わらず一刻も早くナイアを妊娠させたいらしい。
自分の精子を拭き取ってくれなかったので、ナイアのそこは今も彼の種を含んだままだ。
時間が経って粘り気が増した粘液を指先でかき混ぜながら、アレクシはじっとナイアを見下ろしている。
「私に抱かれた証を、あの男も見たのでしょう? 欲情しないわけがない……」
違う、ソーンはそんな男ではない。
別段彼のことをよく知っているわけでもないが、ナイアは反射的にそう思った。
ソーンは一目で自分がアレクシに抱かれたばかりと悟りはした。
だがソーンの反応は、およそ肉欲を覚えているような風ではなかった。
そもそも彼らは明らかに、ナイアを殺しにやって来たのだ。
おまけに敵陣のまっただ中を強襲したのだから、ぐずぐずしていれば自分たちが確実に殺される。
そんな状況で悠長に欲情など出来るものか。
「ちがっ……!」
心のままに叫ぼうとした言葉を寸前で押しとどめる。
今のアレクシに何を言っても無駄。
ソーンを庇うと少しでも取れる発言をしたが最後、ますます彼は怒るだろう。
「違う? 何が違うのです?」
案の定、途切れた言葉をアレクシが追求してきた。
「違います、あの人は私を…………私と、おなかに子がいれば、殺そうと……んんッ」
揃えられた二本の指が、いきなりずぷりと膣内に侵入してきた。
声を詰まらせるナイアの中を、長い指先が蠢く。
「たくさんしましたからね…………まだ濡れていますが、あいつの精を注がれた様子はありませんか……」
「ん、んっ……やめぇ……、んッ」


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