お First complete 
巡りさん

 あぁ、暇だ。
 とりあえず自転車で草の茂った土手を走っている。一応パトロールしているワケだが、ここらでは滅多に逮捕・補導されるようなヤツはいない。警察がダメだとかではなく、本当の本当に治安がいいのだ。この川も――。
 ん?なんだ?今何かを、どこかを、《きれい》だと感じた気がする。…思い出せない。ちょっと最近疲れてるのかな。
 しばらく走っていると橋のたもとに人影が見えてきた。二人組み、子供だろうか。こちらに気付いたのか、土手を降りて橋の下に隠れた。《隠れた》?なぜ?
 橋のあたりで自転車を止めた。低い土手なので、橋の下といえばすぐ足元だ。さっきの二人の話し声――たぶん本人達はヒソヒソ声のつもりなんだろう――が聞こえる。
「もう行ったかな…。」
「なんなの、お兄ちゃん。なんでかくれるの?」
「おまわりがいた。みつかったら家に、つれ帰されちゃうよ。」
「なんで?わかんないよ、きっと。」
「お母さんにたのまれて来たのかもしれないじゃん。」
 《かえされる》?《たのまれて》?分かった。彼らは恐らく、家出でもしてきたのだろう。数日前、ちょっと遠めの町で小学生の兄弟の捜索願が出されていた。それに違いない。
「君た…、のわ!」
 ドタドタ!
 土手を降りようとして、ぬかるみに滑ってコケてしまった。制服が汚れたせいか、かなりムカついてきた。
「わあぁぁ!!」×2
 気付かれた。土手をかけ上がって逃げていった。
「ちょっとコラ、待ちなさい!」
 ズッコケながら怒鳴っても、いまいち気迫がない。すぐにガーディを出して命令した。追えと。子供にガーディをやるなんて情けないが、気が立っていたのだ。
 子供とガーディがかけて行ったあと、起きあがって服に付いた草をはらった。しばらくするとガーディだけが戻ってきた。たぶんまかれたのだろう。だがそれでよかったとも思う。こいつが子供を口にくわえて戻ってきたりしたら、また部長に怒鳴られる。


 さて、早く寮に帰って寝よう。
 日もとっぷり暮れている。電灯の照らす土手を自転車で走っていた。遠回りだ。昼間の子供たちのことが気になったのかも知れない。ジャリ道で缶ビールの入ったカゴがゆれる。
 ふと気付くと、目の前に黄緑に光るものがあった。ユラユラとときに点滅しながらゆれている。鬼火だとかゴーストポケモンだとかは、信じたことがない。とりあえず自転車を止めると、その光は川原の方へスーっと飛んでいった。目で追いかけていくと、光はいくつもの黄緑色のスジと区別がなくなった。そして気付いた。
 自転車の倒れる音など耳にはいらない。土手を転げ降り、魅惑的で美しい光の群れへかけて行った。なぜかとてもうれしかった。
 子供の頃、これと同じものを見たことがあったからかも知れない。田舎の川原でよく捕まえたりしたっけ。懐かしい。そう、あの――。
「バルビート。」
 知ってる子供の声。そう昼間の兄弟の兄の方だ。兄弟はバルビートに囲まれていた。小さい方がやけにはしゃいでいる。
「きれいだなぁ。」
「ここらへんまでは川のみずがきれいだから、いっぱいいるね。オレらのいえのちかくにはいなかったけど。」
 兄貴の言う通りだ。この川はやけに《きれい》だった。また思い出した。東京に出てきたばっかりの頃、ここのホタルを見つけて今日のように懐かしんだっけ。でもいつの間にか全部忘れていた。
 兄貴が何かノートのかいている。なんだか声をかけてみたくなった。
「何かいてんの。」
「お兄ちゃん、あそこにだれかいる!」
「どろだらけのおまわりさんで〜す」
 おどけてみせたが、やっぱりしらけた。昼間のことを謝ろう。
「あー…、昼間ごめんな。ホントわるい。」
 今一度、ガーディをやったことに後悔した。彼らに悪いからだ。
「え…、いいけど…、そんなの。」
「ボクもいいよ。ドロンコおまわりさん。」
 そういえば本気で人に謝ったのも久しぶりだ。そして許してくれた。彼らの前だと、どうしてこんなに素直になれるのだろう。


 その兄弟とはすぐに打ち解けた。兄貴は「虫ポケずかん」と書かれた大学ノートに、子供ながら今まで出会ったたくさんの虫ポケモンのスケッチと、生態を観察し記していた。はっきり言って、ポケモンの生態はまだまだ分からないことだらけ、なのだそうだ。彼らはこれからもっと上流へ、山の方へ行くという。危険だ。しかし友人達の決意は固く、止められそうなものではなかった。

 以上第壱話

  >>つづく

けがされる少年、
   Second complete
けがす少年

 夏休みに入ってからずいぶんたった。暑くて、何をやる気にもならない。もっとも宿題以外、特にやることなんてないが。父さんといえば、仕事で疲れてるから話しかけるなというふうな顔で新聞を読んでいる。母さんも母さんで、主婦仲間とどっか行ってんだろう。どうせ。
 とにかく家にいたくなかったから、外に出てみた。しかしあっついなぁ。お金を持ってこなかったから、アイスも買えない。
 なんとなくブラブラしていたら、神社に来ていた。いつも友達が何人か、たむろってたりするからだ。でも今日はいない。まあ暑いからな。引き返そうとした、がやめた。興味を引くものが目に入ったからだ。隅の大きな木のそばにダンボールが置いてある。寄っていって覗くと、案の定ニャースが二匹入っていた。まだ小さい子供だ。きっと飼主は、増えて飼えなくなって捨てたんだろう。オレはそんなヤツが一番嫌いだ。せめて拾ってくれとか紙に書いて貼っとけっての。もっと見つかりやすいところにするとか。
 みゃ〜ん
 子ニャースはオレが何か持っていると思ったんだろう、ダンボールから乗り出してきた。うずくまっていたもう一匹もこっちに気付いたみたいだ。
 みゃお〜ん
「オレなんももってないって。」
 うちで飼ってやれないだろうか。たぶん母さんがダメって言うだろう。むかし、年老いたエネコを拾ってきたとき、母さんはそいつを売り飛ばしてしまった。今のオレはこいつに、頭をなでてやることしかできない。
「あ!ニャースがいるよ、お兄ちゃん!」
 誰かがなんかいってる。振り向くと小学校低学年くらいのヤツがいて、鳥居のあたりから近づいてくるオレと同じくらいのヤツを呼んでるようだった。似た顔つき、兄弟だろう。そしてここらじゃ見かけない――そもそも顔見知りが多い方でもないオレだが――顔だ。
「それきみのニャース?」
 大きい方もダンボールを覗きこんできた。
「ちがうよ、オレがここにきたら――。」
「このおかねで牛乳かってきて。さっきコンビニあったでしょ。いい?牛乳ひとつだよ。」
「うん、わかった。いってきまーす。」
 小さい方はかけてってしまった。…人にもの聞いといて無視すんなよコノヤロー。しかもお使い頼んだりしてるし。
「おい、人に――。」
「すてネコなんだろ、そいつら。えーと。」
 なんかキョロキョロしている。おっと、何か見つけたらしい。おもちゃの皿みたいなヤツだ。近くの手洗い場で洗ったりしてる。あ、分かったぞ。なんか向こうのペースに乗せられてるが、もう言い返すのやめよう。
「ほら、これで牛乳のませられるかも。」
「そだね!」


今日は登校日だった。だが学校で何をやったか、よく覚えていない。捨てニャースのことで頭がいっぱいだったからだ。
「なぁ、きょうさぁ――。」
「わりィ、ようじあるからまたこんどな。」
 友達からの誘いも断った。あの兄弟と、午後に神社で会う約束をしていたから。それになぜか今日《アイツ》と顔を合わせたくなかったし。
 急いで家に帰り、今日はちょっと小銭を持ってから出かけた。全力で走って、息が切れてきたころ神社についた。
 見渡したがあの兄弟はまだ来てないようだ。けど誰かの話し声が聞こえる。この声もしや…。裏の方へまわってみた。やっぱりいた。《アイツ》を外して四人。気付かれた。
「おぅ!なんだ、ようがあるとかいって、けっきょくきてんじゃん。」
「ほらオージサマがきたぜ。」
《アイツ》は思いきり蹴飛ばされていた。
「ガ、ゲホッ!」
 爆笑
 完全なイジメだ。いつもならオレも笑い飛ばしていたかも知れない。なぜなら彼女のことをイジメ始めたのは、まぎれもなくこのオレだからだ。今年、同じクラスになってから。他のやつらは面白がって混じってきただけだ。けどそれからはどんどんエスカレートしてきたっけ。オレが…。
 けど今日は異常に腹が立つ。なぜかは分からないが。
「なぁ、きょうはやめに――。」
「あ、いた。お〜…ぃ…。ってあれ?…なんか…やば…。」
 あの兄弟の声がした。正直言って、このことを彼らに知られたくなかった。昨日はあれだけ語り合った。なのにこのことだけ黙っていたなんて、まるで二人をだましていたようだからだ。彼らはこんなイジメを絶対許さないだろう。《ひねくれた》自分を始めて悔やんだ。オレはただ彼女をイジメたかったワケじゃない。分かってほしい。
 コンチキショー!!
 オレは走り出していた。バカどもを跳ね除け、泣いているアイツのところへ。
「おいおぶされ!」
「…え?」
「はやくオレにおぶされってんだよ!!」
「…。」
 自慢の脚力で野郎達をまく気だった。いろいろ恥ずかしいが。
 振り向くと、ヒソヒソ話をしている兄弟。そうかと思うと、すごい形相でバカ四人組みに走っていった。分かってくれたのかも知れない。彼らが昨日から首にかけている虫かご、走りながらそのフタを取り、振りかぶって、なんかいっぱい飛ばしてきた!オレはとりあえず逃げ出す。だが野郎四人組みにはそのたくさんの…、ケムッソやキャタピー、ビードルが振りかかる!
「のぁ〜!!」
「きしょくわり〜!!」
「第二次こうげきいぃぃ!!」
 ゴス!
 四人組みはちょうど木の下にいた。兄弟はその木の幹に、飛び蹴りをかましたのだ。
 パラパラパラ…
 毛虫がまたも、四人組みを襲う!女虐毛虫地獄(おんないじめけむしのじごく)!テレビでよくやるポケモンバトルなんて、(ある意味)目じゃなかった。
「オレらニャース連れ出してくるから。すぐそこの土手で待っててくれ。…うまくやれよ!」
「おう!」


 よし、土手だ。はぁ、はぁ、疲れた。人一人背負って走りゃそら疲れるか。しかし兄弟遅いな。子猫連れてくるのに時間いらねぇだろうが。…そう言えば『うまくやれよ』ってなんだ?…まさかあのヤロー分かってて、オレに告れと!?
「えっと、ちょっといいかな」
「うん…。」
「まず、いままでのこと、ゴメン。ホントゴメン。…でもさいしょはオレ…その、ちょっかいは…、えと、気ィ…引きたかった…だけで――。」
「え…気?なに?」
「あーもぉ、だからぁ!…ずっと好きだったんだって!」


あの兄弟が行ってしまったあと、とりあえずこれからどうするか《二人》で話し合った。
「このニャースは、ふたりで一匹ずつ飼おうよ。オレの母さんはなんとかせっとくする。オレこれからはまっすぐに生きたいから。」
 なぜか夕焼けがよく目にしみた。

 以上第弐話

  >>つづく

霊         波
の         の
如 Third complete 如
き         き
者         音
          '

わたしはお前が欲しい

わたしはお前がうらやましい

わたしは無に等しい者

皆に忘れ去られた今も、虚しい呪縛に縛られている

わたしはお前達の記憶の欠片で補われている者

揺らぎまた頼りないが、光は常にわたしを照らしている

昔わたしはお前と同じだった

お前もいつかわたしと同じになる

そちらからお前がいなくなり、しばらくすればお前は忘れ去られる

こちらはお前達の忘れてしまった仲間がいて、寂しいお前を慰めてくれるよ

さあこちらへおいで、永遠の安らぎを

わたしと同じになり、補い合おう


「――いちゃ―、おに―ちゃん、…バカアニキイィィ!!」

おや、お前の弟が呼んでいるようだ

だめだ、もう遅い

彼はきっとお前を忘れない

お前はこちらに来そこなったのだ


「――ッハ!…ってアブナ!!」
 気が付いた。彼は気を失いながら河原を歩きまわり、今川に落ちる寸前だった。ただの川ならまだいい。しかし彼の立っている川岸は、水面から2〜3メートルはありそうな所だ。またその下あたりだけやけに水深が浅く、落ちていたらどうなっていたか知れない。
 それを彼の弟は必死に止めようとしていたのだ。
「もうなにやってんの、お兄ちゃんはァ。」
「ごめん、よく覚えてない。」
 ウソだ。なぜなら彼はそのあと川のなかで、泥だらけになりながらクマのぬいぐるみを見つけたからだ。またそのあと彼自慢のポケモン図鑑シリーズ――もちろんあの大学ノートにデータを記すアレのこと――には、「怪ポケ図鑑」が増えていた。アレを消して忘れ去らないように。

 以上第参話

  >>つづく

   図
Fourth complete
   艦

 とある兄弟がノートに書き記したモノ。

 怪図鑑 第一巻二十三項 
 『九つの魂を持つ狐』
                八月十二日 縹(ハナダ)町郊外にて


 突然の夕立に、ボクらは困った。ここら辺まで来ると建物などはまったくなくなり、まばらな木と高い草が辻をそっけなく飾っている。雨宿りできそうなところを見つけねばと慌てていると、お地蔵さんを見つけた。幸い雨をしのげそうな屋根がついていた、腐りかけてはいるが。
 横に並んだ九体のお地蔵さま達。はっきり言って造りは粗く、また風化してきていた。なのにこんなに惹かれるのは、それぞれ違く、またそれぞれ特有の石質のせいだろうか。模様のあるもの、ないもの、色、海綿状のもの。いろいろあった。
 夕立はやんできたが、もう空は暗くなってきている。今晩はここに泊めてもらうことにしよう。せっかくなので、この不思議なお地蔵さん達についてもう少し探ってみることにした。
 お地蔵さん達のわきには、一メートル四方ほどの石碑が建ててあった。風化がひどく、照らすモノが懐中電灯の上に、文法が古いのでとても読み取りづらい。しかし、だいたいこのようなコトが書かれているようだ。

 その昔このあたりの村に、九つの魂を持つとされる狐が悪さをしに来ていた。
 なんでも九つの尾を持っていて、炎に通じた一種の神通力を使うとか。
 村人が困り果てていると、ある理由(ボクには読み取れない)で、
 何とかというお侍さんが狐を退治したという。
 狐の亡骸はやがて九つの石になり、村人はそれで地蔵を彫り、祀った(まつった)。
 それがこの「九地蔵」である。

 翌日、コンビニで買ってきたお菓子のうち、日保ちしそうなモノを選んでお供えした。

 以上第四話

  >>つづく

   Fifth
オモイということ
  complete

 わたしにはなぜ二人が泣いているのかが分かりませんでした。
「なんでそんなに泣くの?
 みっともないよ!」
「おまえは悲しくないのかよ!!」
 悲しい?わたしにはこれもよく分かりません。
 見慣れたポケモンが草の中で寝ています。
「デンチをかえてあげればいいじゃない。
 ね?――」

 以上第互話

  >>つづく

Last complete
 FIXATION

                10月満月の日

 今日お兄ちゃんとけんかした。お兄ちゃんは山にめずらしいポケモンをとりに行きたいと言っていた天気よほうでは夕方から雨がふると言っていたので、ぼくは行きたくないとお兄ちゃんに言った。でもお兄ちゃんに、むりやり山までつれて行かれた。けっきょく、ポケモンを見つけるよりも先に雨がふりだしてしまった。まだだいぶ明るかった。山道のとちゅうで見つけた、とりあえずバスのていりゅう所であまやどりすることにした。服とかがちょっとぬれてしまって気持ちが悪かった。くらくなってからも雨はどんどんはげしくなってきたので、こんばんはここでとまることになった。食べ物はおかしとかしかなかったので、夕はんはそれを食べた。ベンチにねころがると、お兄ちゃんはすぐにねてしまった。でもぼくは雨の音がうるさかったので、なかなかねむれなかった。こんばんはポケモンセンターにとまって、明日ポケモンをとりに来ればよかったのにと思った。こうなったのもお兄ちゃんのせいだ。
 そう考えるとなんだかはらが立ってきた。お兄ちゃんは、ぼくがいつも自分の言うとおりにすると思っているんじゃないだろうか。そしてそんなお兄ちゃんについてきている自分も、なんだかとてもいやになってきた。だからぼくはそこからにげだした。かばんとか自分のにもつだけは持ってきた。どしゃぶりのなかびしょびしょになりながらぼくは走った。昼間にいたふもとのポケモンセンターまでもどるのもしゃくだったので、ぎゃくのほうこうに行くことにした。バスていからは山頂のほう。すぐに広場のようなところが見えてきた。そこに小屋があったので、とりあえずあまやどりすることにした。調べてみると、カギはかかっていなくて、人が住まなくなってずいぶんたっているようだ。もとはおみやげやおべんとうなんかを売るお店だったみたいだ。おくにはひとばんくらいはねられそうな部屋があった。たたみはいたんでふにゃふにゃだし、カビくさいし、ホコリもすごかったけど、外でねるよりは全然ましだ。この日記もここで書くことにした。
 ここで明日からのことをちゃんと考えておこうと思う。明日からは、全部自分で決めなくちゃいけないのだから。明日から何をしよう。そもそもぼくはなんでこの旅に出たんだろう。さいしょはお兄ちゃんがポケモンずかんをつくりたいと言い出したからだ。でもそれはお兄ちゃんの目的であって、ぼくのじゃない。ぼくはお兄ちゃんとはちがくなくっちゃいけない。もうしばられたくない。じゆうに自分のことをしよう。
 でもなんでだろう。お兄ちゃんのしたことをしないって言うのは、本当にじゆうなんだろうか。それだってしばられてることにかわりないんじゃないだろうか。ぼくはまだお兄ちゃんのことを意識しすぎている。
 そうだ、ずっと前に会ったおまわりさんも、女の子をいじめていたお兄ちゃんも。みんなぼくらと会って変わったって言っていた。ぼくもそれでいいんじゃないだろうか。人のえいきょうをうけずに成長する人なんていないのだから。
 もどろう。

 以上最修話

  ≫fin
原題:「Complete by Children」
初出:http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/story/417.htm
2004/7/11 - 2005/2/12