昔むかしのこと。
そのころ性は三つあった。
太陽の子は角と口が一つずつ。男といった。
月の子は角がなくて口二つ。女といった。
地球の子は口がなくて角二つ。名前は誰もおぼえていない。
男と女とあと一人。三人で愛しあっていた。
助けあって村をつくった。力をあわせて畑をつくった。
三人で愛しあっていた。生まれる子どもは、男と女とあと一人。
けれど今では性は二つ。男と女。
あと一人のことは誰もおぼえていない。
昔むかしのこと。
そのころ性は三つあった。
あるとき男が嫉妬した。女を手に入れたくてあと一人を鞭打った。
あるとき女が嫉妬した。男を独り占めたくてあと一人を縛り上げた。
男と女、二人だけで愛しあった。生まれる子供は男と女だけになった。
あと一人は口がないからもの言わず、それでも男と女を愛していた。
鞭打たれても縛られても、二人をずっと見守っている。
だから今では性は二つ。男と女。
あと一人がどこから生まれるか誰も知らない。
昔むかしのこと。
そのころ性は三つあった。
男と女はあと一人を求めていた。それは原初の愛を回復すること。
ただ三人がもとの三人にもどろうとしているだけのこと。
男と女はあと一人を恐れていた。いつか仕返しをされると思って。
けれど罪を背負ったり赦しを乞う必要なんてなかった。
なのに今では性は二つ。男と女。
あと一人は二人をずっと見守っている。
鞭打たれても縛られても、男と女を愛していた。
いつか三人が抱きしめあって死ねたなら、ようやく原初にもどれるのだろう。
愛の起源。ポケモンの起源。