PC-98 カプセル・モンスター

 200種類以上登場する敵キャラクターを仲間にして、ダンジョンを攻略せよ! PC-98対応ゲームソフト「カプセル・モンスター」1995年12月5日発売予定!
(そして、冒険者であるあなたは、テレスコーピオどうくつにやってきたのだ)
 うんどうやら、入り口から明かりが差し込んでいるから薄暗くてもすこしは見えようだぞ
 あれれ、あんなところにモンスターがいる
モンスター「……♪」 (モンスターはあなたに気づいていないようだ)
 ふうむ、あれはどうやら、ピクシイというモンスターだな。種族は妖精だ
 ううん、こんな低い階層に妖精族がいるなんてめずらしい こんなチャンスはめったにないんだ
(もし恐ろしくないのならあなたはモンスターに戦いをしかけてみてもいいし、無用な殺生を避けてこっそりと先へ行くこともできる)
 もちろんわたしは、戦うことをえらぶぜっ
 なあに、無謀な挑戦をしようってんじゃない 妖精族がそれなりの戦闘力をもっていることくらい知ってるもん
 さてここで事前に街で買いだめしておいたアイテムをとりだしまして、これだっ
 いけーモンスターカプセルーっ ばしゅーんっ (口で言う)
(あなたはアイテム「モンスターカプセル」を投げた。それはモンスターを生け捕りにする)
(それは効果を発揮しなかった。ピクシイは洞窟の奥へ逃げていった)
 あれれ、おかしいなあ
 道具屋のオヤジにかつがれたかなあ これでどんなモンスターだっていちころだっていっていたのに
 まあいいさ たまたまそういうこともあるかもしれないんだ
 それにわたしにはなんたって、このスターソードがあるんだから、低階層のモンスターなんてばっさばっさとやっつけちゃうんだ(それは持ち主に攻撃力を2与える)
(あなたは職業「戦士」だ。あなたは種族「人間」だ。あなたはレベル1だ)
 さあて、もっとこの階層を探索してみようかしら
 おっと、あれはなんだろう……
(この文章は属性「適当」だ。この文章はでまかせでできている。この文章は鑑定を行う必要がない。この文章は効果をもたない。この文章は0GOLDの価値がある)
(無謀は死を呼ぶ鐘だ。しかしあなたはそれに近寄ってみてもいいし、さっさと逃げ出してしまってもいい)
 やや、どうやら宝箱のようだぞ やっほーい まあ、設定上は宝箱と呼ぶことになっているけれど、これはなんだか紙のパッケージだなあ
 側面に文字が書いてあるなあ どれどれ……
(あなたはスキル「解読レベル1」を発動した 解読に成功した)
 なんとか……かんとか……飴、か あってるかな
 ありゃりゃ、そうか成功かあ 大成功だと、きちんとぜんぶ読めるのに もっと漢字を勉強して置けばよかったか知らん
 飴らしいから、舐めてみればなんの飴か分かるかしら ぺろぺろ うん、甘い これは……
 キャラメルかあ…そうか……わたしの大好物……けれどこれ……たぶんくさってる……おなかいたい……
(あなたは状態異常「ぐるぐる」になった。 ひろったアイテムはきちんと鑑定しよう)
(敵襲だ!)
(コカーナLv1 コカーナLv1 カサナギーLv2 あなたは先制攻撃を受ける)
 あいたたた 低レベルの昆虫族だからあんまし痛くないけど、毒になると大変だから、はやく薬草を食べとこう むしゃむしゃ
(あなたの状態異常は略)ふっかーつ ビシバシビ(口で言う) スターソードの威力をみたまえふはははは
 はあ疲れた もう剣振るのいやだよう なんでキャラメイクんとき職業戦士になんかしちゃったんだろう 迷宮1Fではやくも挫折しそうだよう
 あれれ、虫が一匹まだ生き残ってるぞ ああもうめんどくさい アイテムを使おう これでいちころなんだろう ポイポイ
(あなたはモンスターカプセルの効果を誤解している。それはモンスターを生け捕りにする。それは効果を発揮した。カサナギーLV2をつかまえた)
 やったー マサキのとこにおくろう 虫いらない
カサナギー「それは強力なしもべに進化する」
 ばいばい
カサナギー「それは美しい蝶々に進化する」
 ははーん、収集家に高く売れるのかい
カサナギー「それは美少年に進化する」
 なるほど、収集家に高く売れそうだねえ
カサナギー「それはもう進化したくない」
 きっとつらいことがあったんだろう わたしがきっと力になれたらと思うよ ああそれなのにどうしたらきみを助けることができるのかわたしには検討もつかない
カサナギー「それは仲間になりたそうにあなたをみている」
(あなたはモンスターの心理に関する見地を得た。スキル「調教」のレベルがあがった)
 つまりだ きみらモンスターの中には、群れをつくったり、つくらなかったりするやつがいるだろう
 きみたちの精神年齢を人間のそれに換算する方法をわたしは知らないし、けだしそんな単純な法則なんていうものもありはしないだろう
 でも、きみらが人間族とおなしように、他者と心を通わせることで、不安をかろうじておさえこんだり、ささやかな充足をえるのならば
 またそれと同じくして、ときとして他者を不本意にも傷つけたり、殺しあったりするということもなくてはならない
 わたしがきみを仲間に、つまりゲームシステム上でパーティを組むと言うことは、わたしときみは協力し合うと言うことでもあるし
 同時にきみがわたしに反逆するという可能性をえるということでもあるわけだ
 人間族と昆虫族の非対称な関係を考慮するなら、わたしはこれを絶対にゆるさない
 この問題を解決するために、人間族と昆虫族の非対象関係を、わたしときみの関係にもそのまま適用することを提案する
 わたしがここでいいたいことは要するに、次のようなことに集約される
 仲間になりたいなら、奴隷になれ
カサナギー「げー」
 わはははははは
カサナギー「さようなら。ぼくの兄弟を殺した人」
(カサナギーLv2はさみしそうに立ち去った)
 バイバーイ ヒャハー
 ……これでいいんだもん
 人間とモンスターが対等にパーティを組んだって、いいことなんてきっとないよ
 たとえこのダンジョンが、そういうパーティで攻略することを前提にしたゲームバランスでつくられてたとしても
 ……ぐすん
 人間であれ、何族であれ、本質的にはひとりぼちであることに変わりはないの 非連続的な生物なの
 これが植物や真菌類であればまたべつかもしれないけれど
 とかく非連続的な存在は連続性を希求するんだ
 なぜなら、人間っていうのは産まれるまでは母親の胎内で胎盤を通じて母体と連続性を保っていたんだからね
 オルガスムスを小さな死と呼ぶことがある つまり、他者と融合しようとする行為と言うのは、生まれる以前に戻ろうとする行為に等しくて
 それを死と呼んでも差し支えないわけだ
 そこをいくと、ふしぎなことに多くのモンスターたちはタマゴから生まれるのだけれど
 人間族のなかでモンスターの産卵を観察したものがいない これが人間族とほかの種族すなわちモンスターをおおきくへだてている
 モンスターがなべて連続性から発生するものではないとするなら、どうしてモンスターが連続性をよろこぶものだろうか
 だからわたしは、モンスターを心から信頼することなんてとてもできやしないんだ
 かれらの人格を否定するではなく、ただ生命としての前提が大きく異なっているのではないかと思えて、どうしたらいいかわからない
 仲良くしたくないというわけじゃない ムチで撃ち、使役するという関係が、果たして彼らの不毛な連続性への欲求を加速させやしないか、という点でも不安は大きい
 そう、だからわたしはそもそも、このどうくつにモンスターを捕まえにはいったわけじゃない
 テレスコーピオどうくつ、望遠鏡という意味だ 遠くをみつめるアイテムの名前 はるか遠く、それは未来でなく、はるか昔に輝いた星の光
 はて、それなら、わたしは、いったいなにをしにこのどうくつへやってきたんだっけか
 奥へ奥へと進むうちに、ますます暗くなって、いやもちろんどうくつというのは元来そういうものともいえるけれど
 そうじゃなくて、暗くせまく、ずうっと奥までつづいている、これではまるで……
 あっ
(あなたはそこで息絶えた)
(GAME OVER)

中古のポケットモンスター

 どぎゃあああああん
 おかあさーん ポケットモンスター買ってよう
 みんなみんな持ってるんだよう もってないのはぼくだけなんだよう
 買って買って、買ってよう
母「おこづかいためてじぶんで買いなさい」
 どぎゃああああああん
 そんなあ
 ぼくのおこづかいが月500円でえ、ポケットモンスターがえっと3900円かあ そうすると……
 買えるのは八ヵ月後!? なんてこった
 お年玉とっておけばよかったよう
 はあ……
 翌日の朝、教室ではポケットモンスターが話題だった いつもと同じ そう、いつもと同じく、少年は蚊帳の外
「おい、今日の放課後、ポケットモンスターを交換しようぜ」「いいよお、あのね、実はおれ、ポケットモンスターもってきたんだあ」「ひひひ、じつはおれもだあ、休み時間に遊ぼうぜ」「ああ、いっけないんだー」
「うあ、いんちょうだ」「かくせかくせ」「おんなにはかんけいねえんだうよお」
「いいんだ」と少年がひとりごちる、「ポケットモンスターなんて、ただのはやりさ」
 そう、はやり、流行、ブーム。こうしたことは、1年持てばよいほうで、すぐに沈静化して、忘れ去られてしまうものなのだ
 ミニ四駆、たまごっち、なんとかヨーヨー、そういったおもちゃを、みんなで遊んだ記憶はあるけれど、でもそれって、一年とか二年とか、それくらいのもので
 その上、そのおもちゃも、いつのまにかどこかになくしてしまう
 ――大事なのって、はやりそれ自体じゃなくって、そうして誰かと遊んだ、仲良くなったってことのほうなんじゃないかしら――と少年は思うのだった
 放課後。少年がひとり歩いている。
 商店街だった。ショーケースごしに、今大人気のポケットモンスターをみつめる。
「はあ」とためいくをつく少年が、さいふを取り出し、中をあらため、「ぜんぜん、足りないよなあ」
 少年がとぼとぼと歩き出す。自分の学友たちはいまごろ、ポケットモンスターで遊んでいるのだろうか。なんとなく人波をはずれて、路地裏を歩く。いくあてはない
 ふと顔を上げる。みなれぬ道だった。どうやってここに来たのかおぼえていない。そこには、ひとつの店があった。
 自動ドアが開き、少年を中へといざなう。
 うすぐらい店内。あやしい雰囲気だった。客はひとりもいないらしい。それもそうだ。こんな路地の中にあるのだから。
 ならべられた商品をみて、おどろく。
「どういうことだ!」と思わず口にする少年、「ファイナルファンタジーが500円だって? しんじらんない」
 商品のどれをみても、少年の知っている相場の値段より、安いのだった。
 少年が、店の中をみてまわる、そして、見つけたのだった。
 それは口かせをはめている。手足は縛り付けられていて、首輪をはめている。
 少年の視線はそれに釘付けだった。
「ふひひひ」と笑うのは、エプロンをつけた老人だった「早く飼わないと、なくなるよう」
「おじさんは店の人?」と少年がきく、「この店っていったい何なの。どれもずいぶん安いようだけど」
「ふひひひ。ここは中古品をあつかってるからねえ。中古っていうのは、一度人手にわたったものが、もう一度売られるもののことだよ。
 そういうものは、よごれているかも知れないし、どこかが壊れているかもしれないし、何か付属品がかけているかもしれない
 だから新品よりもずっと安い値段で取引されるのさ。けれどねえ、ちゃんと動くものだってあるんだよう
 それなんか、お買い得さ。安くしとくよう。壊れていたって、おれあ知ったこっちゃないがねえ。返品交換おことわりさあ。やすくしとくんだからねえ
「ぼく、これ買うよ」と少年が老人につめよって、「売ってよこれ、ちゅうこだってなんだっていいさ。だって、そうしないと、友達と遊べないんだ」
「ふひひひ。まいどあり。いらなくなったまたおいで。買ってあげるからねえ。そういうものさ。中古奴隷市場というものは」
 そうして少年は、ポケットモンスターを手に入れたのだった。
 夜、少年が友達に電話をかける。以前は仲のよかった、友達だ。
「へえ、おまえもようやく、ポケットモンスターをやりはじめたのかい」
「だけど、取扱説明書がついていなかったから、どうしたいいか、よくわからないんだ。おしえてくんない?」
「はは、そんなのは、やってみておぼえるしかないよ。っていうか、中古なら、前のセーブデータが残ってたりするんじゃないかい。一度それを使ってみたらどうかなあ。感じがつかめるかもしれないから」
「そうかあ、そうしてみるよ、ありがとう」
「こんど、交換とかして、遊ぼう、じゃあね、おやすみ」
「おやすみ」と電話をきる。少年が、昼間買ったポケットモンスターの前に座って、まじまじと観察する。
「おほん」
 と少年がわざとらしく咳払い、「ええと、ぼくはねえ、以前たまごっちをすこしやったことがあるんだけど、んー、あとテトリスくらいかなあ
 と、とにかく、まだよくわかんなくって、うまくいかないこともあるかもしれないけど、ええと、よ、よろしく」
 少年が握手を求めて、右手を差し出す。
 中古のポケットモンスターが、しばられたまま、少年の目を見つめる。
 じっと見つめる。きらきらとかがやく、おおきな、アーモンド形のひとみ。それに少年はみとれる。
 口かせをはめられて、それは発声しない。かえってその分、ひとみに意思をやどしているようにも思える。「あっ……」と少年が「手かせがあれば、握手なんかできるはずがないね」
「めしだっつってんだろ」と少年の母君が部屋に乱入してきて、中古のポケットモンスターに気づくと、「なんだいそいつは、勝手に奴隷取引したのかい」とどなる
「えええ、だって、お母さん、おこづかいで買っていいって」と、少年がしどろもどろ。
「中古だったから、おこづかいで買えたから……」もう泣きそうな少年
 そこに母のかみなりが炸裂する、「あたしがいつ買っていいって言ったんだ! てめえ親をなんだと思ってるんだ!」
 お母さまにこっぴどくしかられる少年。
 そんなやりとりを、中古で取引されたポケットモンスターが、じっと見つめている。もの思うひとみで、じっと。
 そうして夜が更けたのだった。
 翌日、
 少年が学校にポケットモンスターをつれていく。
 隠し場所は、非常階段の上階が適当である。
 すなわち、そこには各学年生徒がこっそりと持ってきたポケットモンスターが、ひしめいているわけである。
「ははん、あんたはまだ口かせをはずしてもらえないんだ」
「それっていうのはねえ」
 信頼されていない証拠なのさ。買われたばかりならともかく、あんたみたいに、大きなポケットモンスターがねえ、まだおしゃぶりしてるなんてねえ」
「よっぽどな持ち主なのか、それともあんたが反抗的過ぎるのか」
「ああ、かっこわるい。ははははは」
 これ、ポケットモンスターたちの、会話である。
 かれらは持ち主が授業をうけているあいだ、暇なので、こうしておしゃべりをしたり、よわいものいじめをしたりして、退屈を紛らわせているのである
「おい」と少年に話しかけるものがいる「おまえ、ポケットモンスター手に入れたらしいなあ。おれとちょっと交換して、遊ぼうぜえ」
「ええーどうしよかなあ」といいながら少年は、内心うれしい。ひさしぶりに、遊びに誘われた気がする「いいよお。もってきてるから、昼休みにしよう」
「さっきさあ、交換にさそわれちゃったよう」と、クラスメートに報告する少年。
「ええ、おまえポケットモンスター買ってもらったのかよお」「やっとだなあ」「どんなのだ?つよいのか?」「いいなあ」
 うれしそうに微笑む少年。ようやく、クラスのわだいにおいつくことができたのだ
「みんなでまた、あそぼうねえ」と少年。同意の声
 そして、昼休みである。
「じつは」と少年がうちあける、「ぼくはまだポケットモンスターを手に入れたばかりなので、どうして遊んだらいいか分からないんだ
 交換というのが、おもしろいというのは聞き知っているのだけど、それをどうやってするものなのか、おしえてほしいんだ」
「なあに、かんたんさ」と相手、「おれのもってるポケットモンスターと、おまえのもってるポケットモンスターとを、とりかえっこして、もってかえって、好きにすればいいのさああ」」
お知らせ:殻さん変態すぎワロチ…(iPhone/Safari)さんが入室しました。(01:00)
お知らせ:殻さん変態すぎワロチ…(iPhone/Safari)さんが退室しました。(01:00)
「なあんだ、そんなかんたんなことなんだ」
 (へんたいじゃないもん……)
 それならそうと、やってみようね」と少年。
 さっそく、中古モンスターと、相手モンスターをとりかえっこする。
 相手モンスターは、するどい目つきで少年をにらんでいる。
「ところで」と少年がきく、「ぼくはポケットモンスターをどうして好きにしたらいいかも、まだ分からないんだったけども」
 すると相手が「わはは、それならはこれをみているがいい」と、中古モンスターを
 押し倒すのだ。
「え、え」
「そうして、なにが楽しいのかしらん」
 少年はちょうど、相手モンスターから「おうふくビンタ」をもらっている。
「はは、この中古のポケトモンスターというのは、ちょうどこなれていて、使い心地がいい感じなんだなあ」
「とくに、このレベルで口かせというのがまたおもしろい……ん?」
 ところが、その口かせというのは、昼間に、ほかのポケットモンスターの手によって、いたずらがほどこされていて、機能をなさなくなっていたのだ
 そのために、中古のポケットモンスターは、記録をとどめていたセーブデータから、このような音声を発声するのだった
「タ、タスケテエエエー」
「おおい、おまえ」と少年が、「なにが好きにするだ。いやがってるじゃないか、ぼくのポケットモンスターをかえせ」
 そうして
 少年は、相手を殴り飛ばすのである
「なんだと、交換って言うのは、こうして遊ぶものなんだぞ」
「知ったこっちゃねえ。こいつは、ぼくのおこづかいで買ったんだ。勝手なことはさせないんだ」
 怪しい店で、このポケットモンスターを見つけたとき、ぼくはこれがほしかったんだ 誰にも、勝手なことはさせないぞ
「くそう、おれはこの小学校の、番長なんだぞ。おれを敵にまわして、ただですむと思うなよ
 いいか、明日からきっと、おまえはこの小学校中の生徒からねらわれるんだ、おぼえてろ!」
 といいのこして、相手は走り去る。むろん、あいてのポケットモンスターもいっしょにである。
「これは、だれにもわたさない。ぼくのものなんだからなー」とっさけぶ少年・
 中古のポケットモンスターが、「ジブンノ」
 フラッシュメモリニハ、前ノモチヌシのIDガノコッテイテ……」
「いいよそんなの」と少年、「かんけいねえだろ」
「ぼくのお母さんはもうこれから、きみの分の夕飯を作る気でいるんだ
 それに
 ぼくは中古屋できみをみつけたときからもう、きみを手放す気はないんだ」
 おわり

精霊信仰とカロリーエンジン

音色:腹減ったな(23:35)
音色:なんか食べてくる(23:35)
殻:はいです(23:36)
殻:「腹へったなぁ……」青年がつぶやいた(23:36)
お知らせ:GPS(iPhone/Safari)さんが入室しました。(23:37)
殻:この国がまだ、領土あらそいのようなことをしていたころである。(23:37)
GPS:見えないものを見ようとして〜シルフスコープ覗き込んだ〜(23:37)
GPS:聴いてください、バンプオブアチャモで「変態観測」です(23:38)
GPS:ただいまです(23:38)
音色:>>突然始まった<<
こんばんは(23:38)


「腹へったなぁ……」青年がつぶやいた
 この国がまだ、領土あらそいのようなことをしていたころである。
「おかえりなさい、どうでした」と青年がきく。「いやあ、今夜はいい変態観測日和ですよ」と答えたのは、彼の同期である。
 そのころ、この国の成人国民は、生体機関(カロリーエンジン)の取り扱い免許を取得することがなかば義務付けられていた。
 彼もまたこの制度のために、演習場であるオレンジ諸島にやってきたのだった。
「きみのその、なんといったか」と青年、「なんとかスコープというのはやはり、見えないものがみえるのかねえ」
「そうですねえ。いいかんじに、みえますよ」と同期が答える。
 ぽつり、ぽつりと会話。「やはり、シルフ製でなくては」「……そうかい」
 それから、二人の間に沈黙が流れる。深夜、虫の声と、木々のざわめき。どこか遠くで、太鼓の音。
 ああ、またどこかでだれかがいったのか、と青年はおもう。
 長い演習のさなかで、精神に不調を訴えるものは少なくない。
 ことに、演習場の中でも、すでに補給の途絶えたこの島にあっては。
 翌日、青年に辞令がくだる。ついに、試験の日がやってきたのだ。
 しかし、仮に試験に合格したとて故郷に帰れる保障はない。
 栄養失調で衰弱した体で、いったいどれほどの働きができるだろうか。
 もたされたのは、米三合と、煙草二箱、そして小さな生体機関がひとつ。
「免許なんていらないから、たらふく食えたらなあ」と青年はおもう。
 夕方、青年をふくむ小隊が出発した。
「免許とって、かならず帰ってきてね」と恋人。いまはどうしているだろう。親は、故郷は、友達は……。
 青年が目をさます。日はとうにのぼっていて、真上にちかい。どれくらいねむっていたのだろう。
 うっそうとした森のなか、青年は裸に近い姿で横たわっていた。荷物はほとんどなくしていて、ただ腰に生体機関がひとつぶらさがっている。
 はっとして、まわりをみわたす。木々、草、葉……仲間も、同期も、試験官もいない。ひとりきりである。
 はぐれたのか、いや、あるいは自分ひとり生き残ってしまったのか。これでは、試験もなにもあったものではない。
「はは、ばからしいや」と青年がふたたびぶったおれる。
 一晩中走り回ったのでずいぶんと疲れている。腹も減った。米を三合ももらっていたのに、すべて背嚢の中だ。背嚢はなくした。それは必死に逃げたので、いろいろとなくしてしまった。すべて、なくしたんだ。
 目をつぶる。そうしていても、この地方の太陽はまぶしい。こうして、じぶんも死んでしまおうかと青年は考える。
 かんがえてみればばからしい。いりもせぬ免許のために、こうして苦労するだなんて。ほしいものは、こんなことをせずとも手に入ったはずなのに……
 ここは地獄だ。どっと疲れがやってくる。目の前が暗い。ああ、きっともうしばらくしたら、しねるのだろうなあ。こうしてしずかにしねるなら、こわくはないなぁ。
「いやだ」と青年がおもむろにさけぶ、「ひとりはこわい。だれか、たすけてくれ。死にたくない」
 青年が目をかっぴらく。そうしてはじめに気づくのは、太陽がそれほどまぶしくなくなっているということ。
 逆光の中にみつけた。青年の顔におおいかぶさるように、一人の少女が彼を見下ろしている。
 そのひとみと目が合う。かとおもうと、女はおどろいた顔をして、走りさってしまった。
 青年はその少女のことを知らない。それでもひとつだけ分かることがある。彼女のしていたかっこうは、このオレンジ諸島の原住民のそれなのだ。
 その村は、森の奥深くにひっそりとあった。
 あばら家から子どもたちが顔をのぞかせて、少年をじっとみつめている。
 それほどあからさまでないにしても、家々からたくさんの視線がそそがれているのが分かる。
 青年はあれから歩きつづけて、ようやくこの村にたどりついた。
 すでに体力は限界である。いつ倒れてもふしぎではない。
 ふと、青年に近づくものがいる。どうやら村の若者らしい。それが手に何か槍のようなものを持っているのを見つけて、青年は緊張する。
 身の危険を感じた青年は、なにか武器をもっていなかったかしらと考える。ナイフはなくした。しかし、腰には生体機関をたずさえている。そっと腰に手をのばす。
 若者が目の前にやってきて、何事かを語りかける。しかし青年にはわからない言葉だった。若者は右手にもった槍を青年に差し出し、次に左手にもった果物のようなものをまた差し出す。
 くれるということだろうか。しかしそれにしては、若者の顔がやたらと険しい。
 青年がおずおずと、差し出されたもののひとつを受け取る。いの一番に、それを受け取って、そして本能のままに、食欲にかられて、むしゃりむしゃりと食べ始める。甘い南国の果物だった。
 槍を持った若者の表情がほぐれる。わっと村人がよってくる。子どもたちは青年をかこんで、観察したりつっついたりしだす。
 青年はそんなことはおかまいなしに、もらった果物を一心不乱にほうばる。なんとも美味である。
 しかし、近寄ってくる村人の中に、とある少女を見つけて、食事を中断する。いつか青年を見下ろしていた、あの少女だった。ああ、彼女はここに住んでいたのか。
 ところで、あまりに空腹なときには、あわててものを食べないほうがよい。食物の消化吸収にもまた、エネルギーが必要だからだ。
 青年が、少女に声をかけようと、一歩をふみだす。そして彼は倒れふした。

 夜、ようやく青年が目をさます。あばら家の中に寝かされていたらしい。周囲の暗がりに村人が寝息を立てているのが分かる。
 そっと外にぬけだしてみる。村の広場は、月明かりに照らされている。そこで、少女をみつける。
「やあ」と青年が声をかける、「きみにお礼を言いたかったんだ。あのときはあのままほんとうに死んでしまいそうだったんだけど、ぼくはきみの顔をみたとき、ふしぎと生きる元気がわいてきたんだ。なぜなら、きみは故郷の恋人にすこし似ている」
 こういういいかたは、すこし失礼かもしれない。けれど青年はかまわなかった。どうせ、言葉は通じない。
 少女はきょとんとした顔で、青年をみつめている。彼女が、青年の腰につけたものを指差して、なにかをいう。
「これかい? これは、生体機関っていうものさ。ぼくはこいつのせいで、ひどいめにあったんだよ。みてみるかい」と青年が、それを少女にわたす。
 少女が興味深そうに、その機械をもてあそぶ。
「その小さな機械には動物が封じ込められていて、カロリーをエネルギーに変換するんだ。それが生体機関(カロリーエンジン)というものなんだ。燃料になる米をなくしてしまったから、もう用をなさないけど。かしてごらん」
 と青年が機械を操作する。機械の中から、奇妙な動物がとびだす。
 かつて十八世紀後半、新種の動物群の発見があった。この新種生物を密閉した容器に封入すると、非常に効率よくカロリーを動力に変換することができたのである。
 ワットの開発したこの生体機関は、産業革命の推進力として働き、それ以後人類の文明のありようを大きく変化させていった。
 出力を動力から熱、そして電力へと応用されながら、今日においても先進国の生活はこの生体エネルギーの上に成立している
 広場をかけまわる動物。目を輝かせてそれを追いかける少女。座ってそれをながめる青年が、微笑む。
「気に入ったなら君にあげよう。ぼくにはもう必要ないからね」月明かりが、二人と一匹を照らしている。
 そうしたことが、彼らの夜の日課となった。
 およそ一週間後、青年の前に何人かの村人が座っている。そのうちの一人の老人は、片言だが青年に分かる言葉を使って言った、「おまえは他のニッポン人とはちがう。あらそいをしない」
 あらそいというのはどうやら、青年たちが行っている試験のことをいっているらしい。
「だから」と老人がつづける、「おまえはここにいていい。しかし条件がある。おまえがとらえている精霊をはなしてほしい」
「精霊というのはなんのことでしょうか」と青年がきく。
「その小さな機械にいれているもののことだ」と老人はいった。
「これは生体機関(カロリーエンジン)といって、人間がつくった道具です。なかにはいっているのは、ポケットモンスターとよばれる動物です。人間のよき友です」
「ポケット(金銭)のモンスター(怪物)ではない。それは精霊だ」そして老人は家の外をゆびさし、「人間の友はあれだ。犬だ」
 四足の動物がかけまわっているのがみえる。
 犬、現代にいたって、絶滅した動物の一種だった。……少なくとも青年は、そのように教育された。ポケットモンスターすなわち原生生物の出現は、それ以外の動物の絶滅と相関していたのである。
 ところが、この南方の奥地に、絶滅したはずの古生物種、犬がまだ生きていたのだ。青年はおどろく。
「いったい、精霊とはなんですか」
「精霊は森の奥深くに棲むものだ。精霊は目に見えない。精霊を怒らせると大変なことになる」
「なあんだ。精霊が目にみえないものなら、目にみえるこれは精霊とはちがいますよ。ごらんなさい」
 といって青年は、昨晩と同じように機械を操作して、奇妙な動物を出現させる。
 それをみていた村人の何人かが、老人になにかをもうしでている。
「おまえのいっているものが、われわれにはみえない。それはやはり精霊だ」
「なんだって……」
 青年らがいままで甘受してきた生体機関社会とは、いったいなんだったのだろうか。きそって生体機関を手にいれ、自分の飯まで機械にまわして、腹をすかせて幸福を求める……。それが精霊だなんて。
 この村ではどうだ、だれも競ったり、奪いあったりしない。狩猟採集を生活の糧として、原初のままの暮らしがある。
 紀元前ギリシアの学者アリストテレスが動物誌に動物に関する広い知識を記録しながら、なぜかポケットモンスターを発見できなかったのは、アリストテレスがポケットモンスターを精霊的な存在だと考えていたからだという説がある。
 実際のところ、われわれには、ほんとうにこの生体機関というものは必要だったのだろうか。はたしてポケットモンスターが、われわれの生活になにを与えてくれたのだろうか。
 青年が、村人に見守れながら、機械を操作する。これでいい。これで……、そう青年は考える。生体機関を、森に返す。
 ところが、そこへ例の少女がかけよってきて、青年の手から生体機関をうばいとる。
「だめ」と少女が青年の言葉で、「これはわたしにくれるっていった」
 青年はおどろく。彼女が青年のまえでこの言葉を使ったのははじめてだった。
「それは精霊だから森に返すんだよ」と青年がさとす。
「ちがう。これは精霊なんかじゃない。あたしの宝物。だって、あなたはあなたの村に恋人がいるんでしょう」
「どうして……」といいかけて、気づく。かつて青年は、恋人の話を彼女にしたことがあった。彼女には言葉がわからないとみくびって。
「あなたは帰ってしまうから、この動物はあたしがもらう」
 青年が、少女への気持ちに気づく。
「ぼくはもう、あの国に帰る気はないよ。この村に、きみのそばにずっといようとおもうんだ」
 少女が答える、「そうならいいなっておもってた。うれしい」
 ひしと抱き合う二人。
 そうして、村人たちは顔を見合わせてふしぎがるのだった。
 彼にはやはり、目に見えないものが見えるらしい、と。

にゃおにくすのお着替え

c.f:にゃおにくすのおめめがうまくかけないのぜ……  無表情になっちゃうのですヨー(23:42)

「さあ、ねこちゃん。お着替えしましょうねえ」とおじさん
 無表情で横たわるにゃおにくす、かすかにふるえる。
 おじさんがシャツのボタンをひとつひとつはずしていく。あらわになる、にゃおにくすの胸板。それをおじさんが、指でそっとひとなでする。
 にゃおにくすのつぶらな瞳がぷるぷるとふるえる。しかしおじさんは、小さく微笑んだかとおもうとすぐに指を離してしまう。
 にゃおにくすが、聞こえないくらいほんのかすかにため息をこぼす。
 つづいておじさんは、にゃおにくすのパンツをゆるめ、やさしくていねいに下ろしていく。にゃおにくすは思わず腰を浮かせてそれを手伝ってしまう。
 するとそこに、にゃおにくすのかちこちになったかわいらしいしっぽがあらわれる。
 おじさんがそれをじいとみつめるものだから、にゃおにくすは恥ずかしくなって、ぎゅっとめをつむってしまう。
 にゃおにすの吐息がしだいに熱くなる。胸が高鳴る。おじさんが「ふふふ」と笑ってどきりとする。ぴくりぴくりと、いじらしいしっぽがゆれてしまう。
 それなのに、おじさんがつぎにしたのは、にゃおにくすに新しいパンツを着せること。パンツが腰にかかろうとしたとき、思わず浮いたにゃおにすの手を、おじさんがそっとつかんで、下におく。
 シャツまで着替えさせられ終えて、にゃおにくすはもはや無表情ではなく、情熱的な瞳で、おじさんを見つめている。
「さあ」とおじさんが、「おきがえじょうずにできたねえ、えらいねえ」
 にゃおにくすがこうこたえる、「にゃー」
 おわり

豚と鞭打ち

「あんたはねえ、わたしのポケットモンスターなんだ。だからわたしを、ご主人さまと呼ばなきゃいけないの」
 男、無言。
「呼べえ、呼ぶんだあ」
 男、無言でかしこまる。
「うう、くそ、くそう……うう……」と女、泣き伏す。

きとかげ:今日七夕かあ。(01:09)
門森 ぬる:七夕ですねぇ(01:09)

「お嬢さま、お湯の準備ができております」
「だまれよブタ野郎」泣き面で女が、「てめえがしゃべるとくせえんだよお」
「明日はは七夕ですので、笹風呂にしてみました」
 男、たんたんと。
「だまれってんだよお、そんなにわたしのムチがほしいのかあ」と女、ムチをふりあげる。
 男、体を緊張させる。
 びしん、ばしん。
 男が音をあげる、「ああ、ひやあ、おありがとうございます、おありがとうございますう」
「はあ」と女、一息ついて「風呂はいってくる」
 と退席する。
 男、恍惚として、「あはあ、おありがとうございますう……ふわあ……」

砂糖水:へ、変態だー!(01:17)

ポチとムチ打ち

「さ、ポチ、ごはんだよう」と女が皿にやまもりのなんとかフーズをさし出す。
 ポチが「は、は」と荒い息をして女の足元にやってくる。
「まて、まてだよポチ」と女。
 それにも関わらず、ポチは山盛りされたエサに突進する。
 とたん、「まてっつってんだろう」と女が怒鳴る。と同時に、後ろ手に持っていたムチをポチに叩きつける。
「ヒヤッ」びくりと跳ね上がるポチの体、「ごめんなさいイ――ッ」
「人間語も禁止だ、このケダモノめエ――」女がくりかえし、ポチをムチでうちつける。ピシン、パチン。小気味よい、乾いた音。
「……わん……わんわん……」とポチが精一杯の犬語を口にする。
 こういったムチ打ちのおりにポチのする、涙にまみれ畏怖のにじみでたような表情というものが、女の征服欲をひとしお満足させる。

c.f:あっ、ポチってそういう……(23:18)

 女がムチを手にしたまま、「ふふふ……」とポチを見下ろす。
「マテ、マテだよ、ポチ……」
 そのときポチといえば三日ほどエサを抜かれていて、ただ女の気まぐれに与えるおやつでもって空腹をしのいでいたのだが、今日でそろそろ限界であろうと女は予想していた。
「わん……、わん……」とポチが切なげに訴える。犬語といえ無論、そこになんら記号的意味などはないわけだが、あるいは女との意思の疎通を可能にする場合もありえた。
「そんなにエサが食べたいかい……へえ……」と女がポチを足蹴にしてにらむ。「そんなことをいいながらなんだい。こんなにしっぽをおったてやがって」
 女がポチをけとばす、「ははは。それがエサを食べたいって様子かい、あんたみたいなケダモノは、いったい何を考えているか知れたもんじゃないねえ」
「くうーん、くうーん」ポチが恥ずかしそうにうずくまる。
「お前みたいなやつは、こうしてエサを目の前にして、私の体を見せ付けて、そのままずーっとマテってなもんだ。あははははっ」
 さて、闘争本能と食欲、それに性欲を加えて、これらは生物の原初的な衝動にはじまるものであるからまた心理的に密接な関連を有しており、それは結果的に多くの生物に共通する性質である。
 このときポチの意識、無意識における葛藤が、畏怖だとか忠誠心といったものを勝る、とある電撃的衝動をよび起してしまった。
「ええい」おもむろにポチが立ち上がり、このようなことを女に吐きかける、「おれは、おれは犬なんかじゃない。いいかげんにしないといまに承知しないぞ」そうして、ムチを取り上げて、女を組み敷く。
「ケダモノめえー」と女がさけぶ。
「ぐふふ、なんとでもいうがいいっ。もふもふしたりなでなでしたりぺろぺろしたりしてやるぞうっ」
「ひえ――ッ」
 ぺろぺろぺろぺろ――ッ。こうしてポチはようやくにして、おやつを摂取することができたのである。それはもはや、なんとかフーズなる得体の知れない食物に比べて圧倒的に、ポチの食欲を刺激するものだったからだ。
 強烈な異臭をふくむそれには一種の習慣性があり、これまでの飼育経験の結果すでにポチの嗜好物となっていて、ポチの味覚を満足させるのだった。
 女にひざまつく格好でもって、そうしたおやつをなめとりながら、「はっ、はっ、はっ」と自然に犬語をあやつるポチ。
「ひえっ、はあ、ふふ、ばかね、まったくこのケダモノは、ふふ、はあ」と女がうっすらとほほえみながら、ポチの頭をなでる。「けれど仕置きはあとできちんとしてあげるんだから――……」
 おわり
初出:http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=3310&mode=allread
2014/06/30 - 2014/08/13