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30日間好きCPチャレンジより

13 - Eating icecream / アイスクリームを食べる

 暑いなと承太郎が言う。暑いなと花京院が答える。
 そういう高校生のふたりは、裾を長くした学生服の、冬のままだ。上着の下はさすがに半袖──承太郎は薄いタンクトップで、これは夏も冬も変わらない──だけれど、まるで我慢比べのように、ふたりは冬の姿のまま、けれどそれを奇異だとじろじろ眺める度胸のある人間は、ふたりの歩く道すがら、誰もいないようだった。
 時々買い食いに立ち寄る駄菓子屋の前で、承太郎が足を止める。ラムネでも買うかいと、花京院が別に勧める風でもなくぼんやり言うと、ちっと待ってろと言い捨てて、承太郎はひとりさっさと中へ入った。
 じりじり陽射しの照り返すアスファルトの上で、花京院は、ぱたぱた指先を揃えた手を自分に向かって振って、起こるはずもないわずかな風を求めて、ちょっと犬のように舌を出す。
 店で買い物をする気もないのに、駄菓子屋のささやかな軒下へ入る図々しさはなく、花京院は太陽に焼かれながら、中へ入った承太郎を待っていた。
 のっそり、承太郎が店から出て来る。
 ほれ。花京院の目の前に突き出したのは、水色の氷菓子だ。棒が2本突き出ていて、割れば2本になる、その類いのアイスだった。割ったその1本を花京院に差し出して、自分の分はすでに口の中の承太郎は、その冷たい氷菓子で花京院の唇を割ろうとするように、近づいたアイスの冷気に、花京院はふっと眉の間を開いて口元をなごませる。
 ほれ。また承太郎は、花京院へ促した。
 ・・・ありがとう。やっとそう言って、承太郎の手からアイスを受け取る。ぺろりと、ちょっと恐る恐るアイスの先を舐めて、鮮やかな水色の思い起こさせる通りにひんやり冷たいそれに、花京院は一瞬だけ照りつける太陽の存在を忘れた。
 アイスはすぐに溶け始めるから、ふたりは手元へ垂れそうになる水色の雫を下から拭うように舐め取って、そうやって少々行儀の悪い、みっともない姿のまま、また歩き出す。
 口からなだれ込んで来る冷たさは、残念ながらアスファルトを踏みしめる足元までは届かず、それでも頭蓋骨の中全部と首筋辺りへはやっと冷気も届いて、ふたりは生き返ったように歩く歩幅を大きくしていた。
 分け合ってしまえば、すぐに食べ終わってしまうアイスは、たっぷりひと時ふたりの体を冷やして、そして花京院の口から出た平たい棒には、アタリと言う文字が焼き入れてある。
 あ、当たった。花京院の声が思わず弾む。微笑んだ花京院と一緒に、承太郎も微笑む。
 これで明日も、また承太郎とアイスを分け合って食べるのだと、そう思うと心がもっと弾んだ。花京院は承太郎へ向かって顔を上げ、まだアイスの残りを舐めている承太郎へ言う。君がまるごと食べたいなら、それでもいい。元々承太郎が買って分けてくれたものだ。当たりの権利は承太郎のものだ。花京院は素直にそう思ったから、そう口にした。
 承太郎はアイスを口から離して、残りを横ざまにしごくようにして口の中へ取り込んでしまうと、もう溶け掛けのそれをしゃくしゃく噛みながら、分けて食うからうまいんじゃねえか、とあっさり言った。
 合成着色料と砂糖がたっぷりの、この氷の塊まりは、確かにこうやって分け合って食べるから特別にうまいのだろう。そうして花京院は、けれどきっと、承太郎と分け合うからいいのだと思った。思って、思っただけで、口にはしなかった。代わりに、青く染まっているはずの自分の舌を承太郎向かって出して見せて、はははと声を立てて笑った。
 承太郎も青い舌を出して見せ、ふたりで青い舌を互いに見せ合いながら、時々肩をぶつけて歩いてゆく。
 高校生のふたりは、まるで小学生みたいに、買い食いにはしゃぎながら家へ帰る。ふたり揃わない肩を並べて、たった今食べ終わったアイスの毒々しい爽やかさに息を清々しくさせて、夏に冬服のままの奇矯なふたりは、一緒に笑う唇の端も、お揃いみたいに青く染まっていた。

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