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時空のエトランジェ 〜Les etrangers qui ont transcende le temps〜 < 6 >
 
 サトリがバスタブに浸かっていると、ロランも浴室に入ってきた。
「さっきのお詫び。背中流してあげるよ」
「怒ったのは冗談だよ。本気にするなって」
「ううん。君の事を信じてれば迷いなんてなかったはずだ。やらせてよ」

「……何事もなく澄むと思った俺が浅はかだったよ」
「もう一回洗わなくちゃダメだね」
 背中を流すだけのつもりが、あらぬ展開になってしまい、気がつくとロランはサトリの体の上に位置してい
た。
 サトリを助け起こしながらロランは照れくさそうに笑った。
「今度は自分で洗う」
 湯を頭からかぶり、サトリが石鹸を泡立てる。
「え〜。僕が洗ってあげるのに」
 すずめの行水よろしく洗髪もそこそこにバスタブに飛び込んだロランが、上目遣いで残念そうな声をあげた。
「遠慮なんてしてねえよ。お前に遠慮してどうする」
「じゃあさ、サトリ……お風呂から出たら……」
「出たら……なんだ?」
「い〜い?」
 にんまりとした顔半分を湯船から出し、指を一本立てているロランの頭をサトリはポカリと殴った。

「なあ……ロラン、俺らそろそろ……」
「…んっ……なに?」
「……いや。……そうだ、そろそろ冬の支度をしないとな……」
「それなら心配ないよ。薪もたっぷり用意してあるから。今日なんかさ、セナムさんの手伝いしたら、収穫した
ての根菜を沢山分けてくれたんだ。しかもその後に僕、エリィ小母さんの所で近所の奥さんたちと一緒にジャム
も作ったんだよ! 初めてにしちゃあ、なかなかいい出来だってみんなに褒められてさ」
 ロランが、にこにこしながら大きな鍋をかき混ぜる仕草を再現する。
「色んな果実で作った熱々のジャムを、こう、瓶詰めにしてさ。明日には冷めるから、小母さんちに取りに行っ
てくるね」
「なるほど。そこで俺の結婚話に花が咲いたわけか」
「うん……よく分かるね」
「いかにもご婦人方の好きそうな噂話のネタだろ」
「小母さんたちに、根掘り葉掘りサトリのこと訊かれて困っちゃったよ」
「まさか本当のこと言えないしな」
 ロランは頷いた。
「実はサトリが異世界の国の王子で、しかも邪神さえ倒した勇者で、魔法も使えるって知ったら、みんなどんな
顔するだろう」
「うわ、嘘くせえ! 俺だったら信じねえな、絶対!」
 二人は笑い合った。それらは全て二人だけの秘密だ。
「真実は――」
 再び真顔で向き直り、ロランはサトリに唇を重ねる。
「――君と僕の心の中だけにある」
「あっ……」
「綺麗だ……サトリ、君の胸に花びらが散ったみたい」
 ロランは彼の白い胸に唇を押し当て、自らの烙印を押す。
 彼は僕の、僕だけのものだ。誰も息を乱す彼のこんな姿を知らない。
 強く抱きしめるロランの背に、サトリの腕が回される。
 瞳を閉じたサトリは何も言わない。しかし背の指は確かに早く寄越せと語っている。
 ロランは己の肉体を彼の欲する処へと――。

 幸福感に満たされてロランはサトリの横顔を眺めていた。
 星明りに照らされたサトリの髪はきらきらと光っていて、この世のものとは思えないほど綺麗だった。
 世界を救うべく旅立った頃からずっと彼を想い続けていたが、何年たっても変わらない。この先もずっと変わ
らないだろう。
 本当に彼を独占しているのが自分でよいのだろうか。今でも信じられない。
 サトリは勇者ロトを祖とする名門サマルトリア王家の王子。あらゆる芸術を嗜み、魔導書、古代文字も読み解
く才知に溢れ、その美貌は人々を魅了した。
 彼を慕う者、あるいは彼を手に入れたいと望む者の多さを充分熟知していたし、同じ勇者の血を引きながら、
魔力のない自分に自信が持てなかった。
 ある時、どうしようもない不安をぶつけた自分にサトリは言った――『俺は、お前だけだ』
 それから色々なことが起こったが、今も変わらず彼はロランの傍らにこうして居てくれる。
 何よりもそれが真実だ。自らの意志で、彼はロランと共にあることを選んだのだ。
 ロランは眠っているサトリに向かって呟いた。
「僕も、だよ……。僕も君だけだ、サトリ」
 ん……と眉を寄せ、サトリが寝返りを打った。
 おっと、声が大きすぎたかな。ロランは慌てて口元を押さえる。
 もう寝なくちゃ。朝食は、とびっきり新鮮な卵を使ってスクランブル・エッグを焼こう。
 
( 続く )  2008/3/9
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王子様なのに、料理、洗濯、掃除なんでもござれのウチのロラン。
旅の先々で料理の味を盗み、輪番制の炊事係で腕を磨いたに違いありません(多分














表に置くのは、さすがに気が引けるので
18歳以上で801OKの方のみ大人向ver.をどうぞ