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グレイの日記-
ネプはずっと側にいてくれる。ぼくが装飾を作っている時も、剣を抱えてすぐ隣に立ってる。
ぼくが頼んだお仕事だから、それはそうかもしれないけれど、ネプはあんまりお金を受け取ってくれなかった。お仕事の内容とお礼の量が釣り合ってないのなんて、ぼくでも解る。
ネプがぼくを見る時、偶にとても悲しそうな顔をする。どうしてそんな顔をするのか気になるけれど、多分簡単に訊いちゃいけないんだろうな。
でも、ネプの悲しい顔を見ると、ぼくも悲しくなる。ぼくの気持ちを押し付けたりなんか出来ないけれど、何か出来る事はないのかな。
ネプの記憶-
装飾店の工房。竈のある此処は熱気が充満している。その中で、グレイは汗一つかかないで作業に没頭している。
「…」
グレイは一切火を使わない。加工作業を自分の指だけでしている。熱をコントロール出来る力で、熱したり冷やしたりして金属の形を変える。粘土遊びのようだと思ったら、鋭い爪の先で模様を彫っていく。爪でも熱を調整出来るらしくて、繊細な模様を、メモも無しに描いていく。
「…ふうっ、出来た」
息も殆どしていなかったし、余程集中していたんだろうな。
「ネプ、これどうかなあ」
「だから、素人の俺じゃなくて親方に見せないと。いつも言ってるだろ」
此処のところずっとこれだ。グレイはまず俺に作品を見せる。
「あ。うん、行ってくる」
あの様子だと無意識なんだろうな。グレイがこの工房の親方と二言三言話している。少なくとも俺は、グレイの作品が駄目出しされたところを見た事が無い。あの子には才能があるんだろう。
「ただいま!売りに出していいって!」
「良かったね」
本当に嬉しそうだ。羨ましいくらい、妬ましくないくらい。
「…きっと大切にされるよ」
「えっ…!うん!」
感想くらい、そろそろ返したって罰は当たらないだろう。
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