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ネプの日記-

 守ると決めたなら守らないといけない。そんな事は解ってる。
 でも俺は、神でも超人でもない、只の人間だ。
 どうしても手の回らないところはある。それは仕方無い。
 解っているならどうして悔しいんだろうか。何の為に後悔しているんだ。



グレイの記憶-
「はあ…」
 さっきから溜め息しか出てきてくれない。
 今日の夜は工房の見張り当番で、ぼくとネプは作品の保管場所にいる。

「グレイ」
 溜め息ばかりなの、怒られるかな。
「あ、ご、ごめんなさい…」
「そうじゃなくて。心身疲れてるみたいだし、寝たらどう?」
 これって、心配されたって事、なのかな。
 今日の朝の事、ぼくはぼくの作った装飾が壊されてるのを見付けた。また。

「ううん。大丈夫、ぼくだけ寝る訳にもいかないし」
「…無理だけはしないようにね」
「それに、犯人を見付けるまで頑張らないと!」
「…グレイ。君の中の犯人像がどんなものか知らないけど、多分犯人はすぐ近くにいるよ」
「え?」
「君の当番の日を知っていて、此処に怪しまれず入れる、そんな奴は工房の人みんなだ。怪しいのは前日の当番だけど、誰かと結託していない証拠も無い。もしかしたら親方も加担しているかもしれない」
「え…う…」
「何処まで解っていなかったか、これだけ聞かせてくれないか。理由も解らない?」
「うん…」
「君に嫉妬しているんじゃないかと思う。君は作品を作った時、駄目出しをあまりされていないよね」
「うん、された事無い…」
 ネプが溜め息をついてぼくを見る。その顔はとても、悲しそうだった。
「君のその自覚の無さが更に妬みを呼んでいるんじゃないかな。尤も今まで言った事は俺の想像だから、真実じゃないかもしれない。でも可能性は一番あると思う」
「…ネプ、ぼくは――」
「グレイ。もしこれが真実だとしてもだ。君はその侭でいた方がいい」
 どうして、どうしてそんな事を、そんな寂しい顔をして言うんだろう。



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