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グレイの日記-

 ぼくが無理を言ったのに、それで怪我までしちゃったのに、ネプはぼくを怒らなかった。
 それに、怪我をしたのは失敗だからって、いつも払ってるお金さえ受け取らなかった。
 ぼくは納得いかなくて散々言ったんだけど、何だかはぐらかされた。どうしてなんだろう。
 でも、ネプはちょっぴり嬉しそうだったかも。これもどうしてだろう。



ネプの記憶-
 深夜。暫くは続いていた腕の痛みも、今はかなり軽減されてきた。朝には添え木もいらないだろう。
 グレイは隣のベッドで寝ている。いつもの厚着は脱いでいて全く無防備だ。本当に俺の事を信じているんだろう。それを裏切る事は簡単だけども、裏切って何か利益があるかと言われたら何も無い。多分。
 取り敢えず動くにも支障が無いから、冷えてきた外気に晒されていた肩にブランケットをかけ直してやる。

「…」
 羽を煎じたものは、ほんのり甘くて優しい味がした。効力の凄まじさは体感しているけれど、あれを自己犠牲と言うと本人は不思議そうな顔をした。髪の毛を抜くよりは痛くないらしい。リスクがあまり無いなんて、全くどんな便利な体なんだか。
「…ん?」
 何だか思考が妙な方向に行く。
 ち…違う違う、あれは治療目的で、そうだ、輸血みたいなものだ、だから…混じったとかそういう変なところに思考を持っていくんじゃない。

「…はあ」
 一人で何をしているんだか。ばつが悪くてグレイから目を逸らす。眠たげな頭が囁くように別の思考を持ってくる。
 俺は此処までされていいんだろうか。怪我をした時に言いかけた言葉を思い出す。
 俺はもう駄目だ、使い物にならないから。
 傷を治せなかったとしても、それを言ったところでこの子がすぐに納得する場面が想像出来ない。多分ずるずると連れたんだろう。どうしてかは解らない。
 この子の側にいる資格なんて俺には無いのかもしれないのに。誰かを殺してきた手に、この子を触らせてはいけないんだと。
 其処まで思う理由は…単に、この子がこっちに来る姿が見たくないだけかもしれない。




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