■-10

ネプの日記-

 甘えたら、忘れたらきっと楽だろう。眩しいところに入れば、影も消えるんだろう。
 けれど、あの子の前では忘れられない。抱えている影を見られてしまう事が怖い。影に触れさせたくない。
 元々は、誰かを悲しませたり、貶めたりする事は考えられなかった。少し前までそれを平気でしてきたのに、どうして今になって前の自分が出てくるんだろうか。
 似ているから懐かしくなったのか、それとも。



グレイの記憶-
「うー…」
 今日の朝は何だか凄く眠い。何でだっけ…、昨日は…。
「ネプ!」
 そうだった、昨日の夜に行った工房で、ネプが怪我をして。
「ん…大声出さなくても起きるよ…」
 いつもはぼくより先に起きてるのに。まだネプはベッドにいた。やっぱり疲れてたのかな。
「腕はっ、腕は大丈夫?」
「ああ、もう動くみたいだ…凄いな」
「…良かった…」
「ちょっと…ああ、そんな泣かなくてもいいだろ」
「だって…!」
 良かった、本当に良かった。あんな大怪我して、ネプに迷惑かけて、どうしようって。
「ほら、この通り動くから、泣かないでくれよ」
 ネプのあったかい右手がぼくの頭を撫でてくれて、それが嬉しくてぼくはやっぱり泣くしか出来なかった。
「全く…待ち合わせには遅れないようにね」
 ネプは溜め息交じりに言って、ぼくが泣きやむまで側にいてくれた。



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