■-13

グレイの日記-

 ぼくは今まで、力で装飾を作っていても、それはみんなと違うだけだって、変なだけだって思ってた。
 そんなものはいらないって、無くなればいいってずっと思ってた。
 けれど今日で、そんな事が少し吹き飛んでくれた。自分が少し好きになれた。
 この事を教えてくれた優しさは、もっと。



ネプの記憶-
 早朝。天気は快晴、風は無い。絶好のチャンスだ。グレイは広範囲を長時間冷却出来ると言っていたから、可能かもしれない。
 まだ太陽が出たばかりの頃に二人で街を出た。森までは少し遠い。グレイは眠そうにしてはいたけれど、それに耐えてもいた。
 そうして、開けた場所を探し当てる。此処ならいいだろう。

「グレイ、出来るだけ広く、大気を有りっ丈冷やしてくれ」
「え!?でもネプが寒いよ?」
「心配しなくていいよ。時間も無いし早く」
「うん…」
 グレイは深呼吸してから、片手を前に差し出した。途端に辺りが冷え始める。かなり寒いけれど此処は我慢だ。
 急速に冷却された空気に、それは見えた。

「あ…」
 数を増して宙に舞う小さな光の粒を見て、グレイの表情が明るくなる。
「わあ…!」
「良かった、出来たみたいだ」
 まだまだ時期外れのダイヤモンドダストが目の前に広がる。
 前に発生条件を聞いた事があった。その時は気温が下がらなくて発生しなかったけれど。

「凄く綺麗…」
 現象の名前を教えると、名前も綺麗だとグレイは言った。
「俺も見るのは初めてだよ」
「じゃあ、見られて嬉しい?」
「…ああ」
 向けられた嬉しそうな顔には、本音を返す事にした。
 微細な氷の粒は、まだきらきらと輝いている。それを見ながらだと、何だか素直になれた気がして言葉が零れた。

「君は冷たい事を嘆いてるけれど、こんな事が出来る力なんだって、単に知らないだけだったんだよ。君だけが知る事の出来るものが、まだ沢山ある筈なんだ。だから、そんなに悲しまなくてもいいんじゃないかな」
 グレイからは何も返ってこない。少し大仰過ぎたかと思って隣を見る。
「…」
 グレイは俺を見て泣いていた。
「ネプ」
 朝の日差しに涙が光っている。
「ぼくは…この力が本当に嫌いだったんだ…」
 言葉も表情も歪んで、けれどグレイは真っ直ぐに俺を見てくる。
「でも…ほんの少しだけ、好きになれた、かも…。ありがとう…ありがとう、ネプ…」
 その言葉には何て返せばいいのか解らなかった。それがどうしようも無くもどかしい。
 グレイはダイヤモンドダストに目を戻す。

「もう少し、この侭でいいかな…」
「…うん」
 ああ。こんな気持ちを、守れたらいいのに。



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