■-23
グレイの日記-
同じものを感じてる、それだけだと思ってた。
でもそれは、普通の事じゃないんだね。
同じように思う事は、本当はとっても難しくて、辛くて、嬉しいんだ。
ネプの記憶-
かちゃかちゃと泡立て器を一生懸命に動かしている手の主が、悲鳴を上げるのも早い。
「んーっ…いたた…」
「無理しないようにね。代わろうか」
「うん、ちょっとお願い」
受け取ったボウルには生クリームと砂糖が入っている。大分掻き混ぜて筋が残り始め、そろそろいい頃合いのようだ。
今日は工房の仕事があまり無く、協会の依頼も達成した日だ。夜になってからではあるけれど、宿の厨房を借りて、頼んでおいた材料でアイスクリームを作る事にした。
以前、グレイの力ならアイスクリームも作れるんじゃないか、そう提案してくれた人がいて、その侭日が過ぎてしまったけれど、今日やっと都合が付いた。繁忙期も過ぎて暇が出来た今日は、グレイにとって料理日和だろう。
「腕、痛い…」
「大丈夫?」
「ううん、平気…あっもういいかも、次はこれだね」
残りの材料を入れて、グレイの回復を見計らってまた交代する。もったりするまで混ぜるらしい。もったりとはどういう状態なのか今一よく解っていないけれど、まあ感覚で解るんだろう。
「料理ってこんなに大変なんだなあ…」
「何か作るっていうのは何でも大変な物だよ」
「でも装飾を作る時はこんなに痛い思いしないよ?」
「代わりに頭を痛めてるじゃないか」
「実際に痛い方が嫌だよ…」
「其処は得手不得手の問題だよ」
取り留めの無い雑談をしながら、二回交代を挟んだ頃に漸く材料を混ぜ合わせる。あとはグレイに任せよう。
グレイはボウルを持って、液体をゆっくり混ぜる。側にいると寒くなってきたから、もう冷やし始めているらしい。段々と液体が固まり、五分もかからず全て固まってしまった。
「出来たのかな?」
「出来たみたい…だな」
「ちゃんと出来たのかな…」
グレイがスプーンで恐る恐る味見をすると、突然青い尻尾がぴんと立った。
「ネプ!甘いよ!ほらっ!」
勧められるが侭に味見をしてみると、体験した事の無い口当たりがした。
「美味しい、甘くてすぐ溶けるって凄いな」
「これ、ぼく達だけで食べてもいいのかな、凄く美味しいのに」
「宿の人にお裾分けしよう、今賄いを食べてるだろうから、いいデザートだよ」
「うん!」
青い尻尾をゆらゆらとさせて、心底嬉しそうにグレイは頷いた。
アイスを持っていく後ろ姿を見ながら、これがあの子の自己嫌悪を取り除くきっかけになればいい、そう思って我が振りを思い出す。
ああ、なんだ、自分を嫌っていたのは、案外と自分だけなんだ。
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