■-24
ネプの日記-
癒やされて、心が楽になっていく。
それは決して、自分の犯した事を忘れるという事では無くて。
寧ろ今まで、忘れた振りをしていたのかもしれない。
今の俺に必要なのは、少しでも正面から向き合う事だ。
グレイの記憶-
今日も依頼を無事に済ませて、ぼく達は宿に帰り着く。宿はすっかり家みたい。
「ネプ、今日の怪我治すよ」
今日、ネプがぼくを庇った時に腕に付いた傷。何ともないよって言ってたけれど、包帯に滲んだ血が見えてやっぱり心配だった。
「いいよ、自分で何とかしておく」
「でも、血も出てたし、今すぐに治せるよ?」
「それはそうだけど…」
前から遠慮がちだったんだけど、他の場所の傷は今までも治してきた。けれど腕の傷だけは治した事が無かったっけ。
「もしかして、腕、見られたくないの?」
「まあ…ね」
「でも…えと、ネプは怒るかもしれないけれど…ネプが何か重い物を持ってたら、もう一人で持たなくてもいいんじゃないかなって思うんだ。だから大丈夫だよ」
上手く言えないけれど、隠し事を一人でするよりは、辛くないかなって思ったから。
ネプは少しだけ驚いたみたいな顔をして、それからちょっと苦笑いした。
「重い物って言う程じゃないと思うけど…隠さなくてもいいか」
ネプが包帯をくるくる取ってみると、やっぱり痛そうな傷が見えた。今までこんなのを我慢してたのかな。
「少し驚かせるかもしれない」
「ううん、大丈夫」
ネプは袖をゆっくり捲くる。その下には、でこぼこした傷痕がびっしり、肘くらいまで続いてた。
「これ…どうして」
「両腕を溶かされたんだ」
「溶かされた!?」
「ああいや、別に襲われた訳じゃない。…前に、俺の過失で殺してしまった子がいる事は話したよな?」
「うん、確か人じゃなかったんでしょ?」
「その子は生まれ付き、酸の体を持っていて、ずっとそれを浴び続けたらこんな風になったんだ」
ネプは懐かしそうにしてたけれど、やっぱり寂しそうだった。
「何か解りかけてたかもしれない、あの間違いが無ければ、本当にそうなれてたかもしれない。考えてみれば、思い出すのが怖くてずっと隠してたのかもな」
「でも、ぼくは悪くないと思うな、ネプが怖がってた事」
「どうして?」
「だって、怖い事は怖くて、悲しい事は悲しいもの…。ネプは正直に気持ちと向き合ってたんじゃないかな」
隠す事も辛くて、一人でずっと我慢してたんじゃないかな。そんな事が出来る人を、ぼくは弱いと思わない。
「…そうか、そういう見方もあるのかもな…」
ネプは傷痕をじっと見て、不意にぼくを見た。
「少し楽になれた気がする。ありがとう、グレイ」
「うん」
確かにネプは、悪い事を繰り返したかもしれない。
でも…償いの形は、何も苦しむだけじゃないと思うから。
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