■-31

ネプの日記-

 自分が只の人間だというのを此処まで悔いた事は無いだろう。
 手の届かない物に対して、いつだって無力を感じていたけれど、今回は。
 二年前のように、どうする事も出来ずに終わるのか?
 それだけは。それだけは…。



グレイの記憶-
 間違ってない、ぼくの中には何かがいる。装飾を作る間も、依頼をしてる間も、ずっとそれを感じる。
 依頼の時に気を取られてぼうっとしてたら、ネプがぼくを庇って足を怪我しちゃった。浅いから心配しなくてもいいよって言ってたけど、血がどんどん服に染みるのを見たら怖くなった。

「ネプ、傷みるよ」
「羽を使う気なのか?」
「…うん」
 羽根を傷口に当てて、包帯で固定すれば夜の内に治る筈なんだけど、ネプは凄く心配そうな顔をしてぼくを見た。
「やめた方がいいと思うんだ、今は君の調子が良くないし、もしかしたら知らない内に君に負担をかける物なのかもしれない」
「でも…ネプが痛い思いするのは、やだよ…」
「確かに今は痛いけれど、時間が経ったら治るよ。それに、君に甘えてばかりもいられないし」
「うう…じゃあ、普通の手当てだけさせて?」
「それで君の気が済むのなら、お願いするよ」
 まずは周りの固まりかけてる血を拭き取らないと。ぼくは清潔な布を少し濡らして、椅子に座ったネプの脛に押し当てる。
「…ん?」
「どうしたの?あっ、痛かった?」
「いや…何だか変だ、傷がさっきより浅く…」
 ネプが話してる内に、ぼくが布を押し当ててる傷口がどんどん塞がっていく。
「えっ!?」
 びっくりして手を離したら、傷はそれ以上塞がらなくなった。
 少しの間何も言えなかったけれど、ぼくは急に怖くなってその場に蹲った。ネプが側にいてくれても、ずっと動いてる中のものが怖くなる。

「グレイ、しっかり」
「うう…」
「此処で君が折れてしまったら、君が怖がってるものの思惑通りになるかもしれない。だから頑張るんだ」
「うん…」
 ぼくの内側でもぞもぞ動くものが、何だか笑ってるみたいに感じた。



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