■-32

記憶-
 此処は何処なんだろう、あったかいけれど、嫌な感じのする場所にぼくはいた。さっきまで寝てた筈なのに。
「私に問う物があるようだが、申してみよ」
「えっ」
 あの、頭に直接響いてきた声がする。前とちょっと違うのは、音で聞こえるところも少しある。
 ぼくは慌てちゃったけど、これを逃したらまた解らなくなると思って覚悟を決めた。

「ねえ、さっきの治癒、あれはきみの力?」
「そうだ」
「でもなんで急に?もしかして、羽の力も?」
「一度に幾つも質問をするでないぞ、身の程を知れ、と言いたいところだが、今は気分が良い。答えてやろう」
 どうしてこの声は凄く威張った感じなんだろう…。
「お前に生やした羽は、本来私の物だ」
「生やしたって、きみが?」
「此度の治癒は、私の再生の力が漏れ出ているのであろう。お前の成長により、私はやっと始原を迎えられる」
「ぼくの成長が、きみの始まり…?どういう事…?」
「お前にある、燃え続ける物、私はそれを喰らう事で世に生まれいずるのだ」
「ぼくはそんな物持ってないよ!」
 怖い言葉を言った声は、何だか呆れたみたいになった。
「あるではないか。あの者の傍らで共に居たいと思う、幸福を望む心が。大変に美味ぞ」
「それって…やだ、やだよ」
 そんな、そんな大切な物を食べないで。
「ぼくはどうなっちゃうの…?」
「お前は燃え尽き、私の血肉となる。光栄に思うが良い」
 勝手な事ばかり言ってる声に、ぼくは何だか腹が立ってきた。
「きみは、誰なの」
 精一杯の声を出したつもりだったけれど、消えそうなくらい弱くなった。
 響いてくる声は優しく笑って、ぼくに言った。

「私は偉大なる不死鳥。フェニックス。あと六十の日を以てして生まれ出づる」



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