■-35

グレイの日記-

 ぼくはもう駄目なんだって、ぼく自身が言ってる気がする。
 故郷で言われてたのはこの事だったんだ。本当に悲しい思いをしなきゃいけない。
 せめて、ぼく一人だったら。でもそんな事はやっぱり寂しいよ。



ネプの記憶-
「ネプ、もういいよ」
 ある日の事だった。調べ物の帰り道、グレイが疲れた声で俺に言った。
「もういいって、そんな事ある訳が――」
「その代わり。その代わり、お願いがあるんだ」
「お願い…?」
「残ってる時間を、思い切り楽しく過ごしたいんだ。色んなものを出来るだけ見て、出来てなかった事もやってみたい。それじゃ駄目かな」
 酷い決断だった。こんな女の子にさせるには、あまりに残酷で苦しい覚悟だ。言葉にするのも苦しかっただろうに。
 グレイは真っ直ぐに俺を見ている。疲れさえ見えるけれど、迷いは無い。

「…解ったよ」
 グレイが覚悟をした以上、受け入れるしか出来なかった。もう俺に出来る事はこれだけだと直感した。
「あと、一つだけ」
 グレイの目が少し潤んできている。泣くのを我慢しているんだろうか。
「一緒に居てくれる?」
 両腕の傷跡が疼いたような感覚がした。これは責められているんだろうか。
「ああ。君の側に居るよ、どんな事があっても」
「有り難う…」
 また、失くすしかないのか。

---あと30日



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