■-36

ネプの日記-

 何だか、物がより鮮やかに見える。
 仮初めじゃない時間の中で、其処にある物がどんなに貴重だったかを思い知らされた。
 たとえ、それが最初から決められていた末路でも、今は何にも代え難いくらい大切だ。
 失くして初めてその貴重さが解るというけれど、本当だとは知りたくもなかった。



グレイの記憶-
 隠し事を続けて、もう随分日が経っちゃった。
 ぼくの調子はあれからまた少し悪くなってきた。まだ何とか誤魔化せてる、この侭みんなにばれないといいな。みんなにまで迷惑かけたくなくて、ぼくはネプに甘えきりだった。

「ネプ」
 宿に帰ってきて、少し休んでる間も辛い。
「雪なんて、まだ降らないよね」
「そうだな…」
「かまくらとか、作ってみたかったな…」
 そんな事、もう出来ないけれど。
 ぼくもネプも暫く黙ってたけれど、急にネプがぼくを呼ぶ。

「何?」
「酒、飲んでみる?買ってくるよ」
 人と話してる時に出た、お酒の話はぼくだけ仲間外れだったっけ。
 でも…。

「ううん、いいや。決まりはちゃんと守らないと」
「そうか…そうだな」
「ネプ、ぼくは…ぼくらしくしてるよ」
 最後まで。それだけは言えなかった。

---あと15日



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