■-39

ネプの記憶-
 早朝、まだ日も昇らない頃に二人で街の外に出る。
 グレイは一気に不調になり、もう歩く事も侭ならない。それでも、街の外に出るまでは自分の力で歩いた。
 グレイを抱きかかえて、森へ、いつかダイヤモンドダストを見たあの場所へ向かう。最期はあそこで迎えたい、グレイの希望だった。

「着いた、ね」
 森はまだ秋の色も薄い。まだあの時のように寒くはない。
 今日はグレイと出逢ってからやっと一年が経ったくらいだ。思えば、あの出逢いはグレイにとって終わりだったのか。
 そっとグレイを下ろして、一人では倒れてしまう体を支える。

「今、あいつはどんな風なんだ」
「なんか、どくどく、して…内側から、叩かれてる、みたい」
 此処まではっきりと存在が解るのに、何も出来ない事が狂おしい程悔しい。
「あと、何だか…これって、あつい、のかな」
 言われてみれば、触れているグレイの体が少し温かいように思う。けれど、それを心地良いとは思っていられなかった。
「ね、え、ネプ…」
「ああ、此処にいるよ」
 虫の息に、喋るな、とは言えなかった。最後までグレイの言葉を聞きたかった。
「ごめ、んね…、沢山、嘘、つかせて」
「いいんだよ、俺は大丈夫だから」
 色々な物を堪えて、出した言葉はこんなものだった。
「ネプの、事は…大好き、だから、させたく、なかった、よ…」
 その瞬間、グレイの体が白い物に包まれる。形は炎のようで、色は太陽の強い光だった。白い炎の中でグレイの表情が明らかに変わる。耳をつんざく絶叫が響いた。今まで聞いた事の無い、苦痛と恐怖にもがく声だった。
「グレイ!」
 腕の中でグレイだけが燃えていた。ごうごうと、においも無く焼けていく。
 徐々に尽きて小さくなっていく体を掴もうとした。掴めても、掴んだ先から消えていく。炎だけが強く、大きくなる。
 そうして、炎が火柱になった頃だった。炎が炸裂して、体ごと吹き飛ばされる。転がった背に木の幹が当たった。焼け付くような光に目が眩み、暫く目が開かなかった。
 瞼の裏で光が少しだけ弱まったのを知って、ゆっくりと目を開けると、其処には炎と同じ輝きを持つ大きな鳥がいた。




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