■-40
フェニックスは他に子を産ませる。羽根を撒き散らし、母体に寄生する。
燃えて、燃えて、燃え続けるものを宿した雌の火の精霊を器にして、フェニックスは始原を迎える。
ネプの記憶-
鳥は優雅に飛んでいた。美しく、眩しい輝きを放って。
「大義であった」
聞き心地のいい、透き通るような声だ。
「何故降誕を祝福しない?私の器はあの娘の物だというのに」
「お前はあの子じゃないだろう」
「私の命はあの娘の全てだ。これ以上の証拠が何処にある?」
「じゃああの子が何処にいるって言うんだ」
「その言葉が何故出るのか、全く理解出来んな。見えぬ物を容易く信じたのに、何ゆえに見えぬ物を見ようとする」
「弱いからだよ。弱いから、あるもの全てが欲しくなるんだ。失う事を受け入れられない。愛しさっていうのはそういうものだって、あの子が教えてくれたんだ」
「その教えだけでは不満なのか」
「言っただろ、全てが欲しいって。お前は、俺が欲しがった全てを奪った事が解らないんだな。見て、聞いて、触れて、感じる、お前が今生きている事くらい当たり前の事を奪ったのに、何一つ解らないんだな」
「お前は、あの娘を贄とした私を憎むのか?それとも恐れるのか?」
「お前なんて知らない。お前なんていらない。お前には解らないだろうけれど、俺が欲しい人は、もうこの先ずっといないんだ」
「哀れなものだ。有限に縛られ、本質を拒む、愚かなる者よ。お前には何も有らぬ。全てが空虚よ」
鳥は飛び去る。その痕跡がきらきらと輝いていた。輝きの粒が消えるまで、その場に立ち尽くしていた。
「…愚かだよ。だから此処にいるんだ」
沢山の嘘を抱えて。
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