狂い咲きが華


■-2

 裏街道の宿を取る。中でも、事件を起こしかねない客でも宿泊を許可するような宿を取ったので多少割高だ。一見して瀕死の客を医療目的以外で取る宿は無いに等しいだろう。
 ジェイスンには一歩一歩が鈍重なものとなり、歩を進める度に拷問のような異常の終わりを願うが、やはりそれに似て募る苦悶は自尊心を潰しにかかる。開いた侭の口からは唾液が垂れ続け、心身の自由をことごとく奪われる感覚が徒に恐怖を掻き立てた。
 借りた部屋へ辿り着くと、室内には粗末な寝台が一つだけあった。ハーキュリーズは寝台にジェイスンを横たえるとその装備を外し、服も取り去ってやる。反応しきった体は初めて見た時のものより若干肥大化しているように感じた。初めて以来に目にした事実と現状はハーキュリーズへ多少の申し訳無さを呼び、まだ二回目となるだろうにこの事態を迎えてしまい、残念と不安も募る。すぐにハーキュリーズも身に着けているものを取るが、僅かな手の震えに気付いて溜め息をつきそうになり、寸でのところで呑み込んだ。ジェイスンへ余計な不安をかける訳にはいかない。
 まとうものが無くなったハーキュリーズは、意を決してジェイスンの体へ跨がる。自身の体へ指を触れて、微かに濡れていたのは覚悟の表れなのかもしれない。過去の己の経験から、慰めてやれば衝動を放置されるより幾許かは楽になれるだろう。そうさせるのは哀れみや慈しみという大仰な感情ではなく、好いた相手を手助けする役は自身でありたいと願う単純な我儘であり、相手が我儘を許してくれると知ってのものだ。
「うう、ああ、あぁああっ」
 一際大きく呻いたジェイスンがハーキュリーズの腕を掴む。その侭強く引かれ、ハーキュリーズは堪らず寝台へ倒れた。小さく予測はしていたが、実際に起こるとやはり恐怖は抑えられない。しかし怯える暇も無く、ジェイスンは起き上がるとハーキュリーズの足を無理矢理に抱え込み、晒されたハーキュリーズの女へ一気に体を突き込んだ。
「うっあ……!」
 粘液はまだ少なく、内側から抉られる感覚と共に痛みさえ走る。無遠慮で暴力的な律動が、過去でしかなかった恐怖を一気に現在へと引き上げた。
「ぐぅうっ、はぁっ……ぐあっ……!」
 せめて力を抜こうと努力するが、それすら許さぬ激しさが苦痛を寄越す。いつの間にか涙が溢れ、恐怖に心身が支配されそうになった頃だ。
「あっ、あうっ、ぐ、ごめんっ、ごめ、んっ……」
 殆ど原形を留めていない思考、回っていない舌でも謝罪を繰り返す。苦しみの中でジェイスンの顔を見てみると、熱と涙と唾液で酷い有り様ではあるが、確かな恐怖心が窺えた。今支えられるのは己しかいないと、事実はハーキュリーズの恐怖心をねじ伏せる決意を呼ぶ。冷たい過去を包み、温めてくれたジェイスンを想うと負ける訳にはいかなかった。
「ジェイ、スン」
 声が届くのかも怪しいが、それでも伝えたい意志がハーキュリーズに言葉を紡がせる。
「いや、だ、ごめ、やだ、ごめ、ぇ……」
 ジェイスンは子供のするように首を横に振り、拒否しても体は止まらない。精神まで蝕まれなくとも、其処に受けた傷は大きかったようだ。
「だい、じょうぶ……だから……」
 滲んだ涙が、目を細めた瞬間に零れ落ちる。ジェイスンの傷口を洗い流す力も無いのだろうが、輝きは確かなものだった。
「はっ、あぁ、や、あが、あぁぁあ……!」
 苦しみ抜いた呻きと共に最奥を一段と強く突かれ、欲の侭に注がれる。途端にハーキュリーズの体へ痺れるような疼きが生まれ、まさか伝染したのかと危惧したが、ジェイスンのような狂乱に陥るまでではないようだ。寧ろ好都合ではないかとハーキュリーズが思うや否や、感覚は激しさを増す。そうして全てを受ける前にジェイスンがまた動き出した。
「あぁっ!」
 確かな、そして強い甘さが熱となってハーキュリーズの体を包む。続く責めへ即座に反応を示し、体のどちらも大いに濡れていった。
 恐怖は刺激されるが、それも何処か遠くなる程に激しい感覚で心身が麻痺していく。そして冷えきった過去とはやはり違うのだと、麻痺を拒絶しない己に思い知らされた。
「うぅ、あ、うぐぅうっ」
 ジェイスンが相変わらず終わらない苦しみに呻くが、謝罪の言葉は消えている事実にハーキュリーズは安堵する。
「あぁっ、んうっぅう、ああぁっ」
 放っておかれた男が堪らないが、責め立てられる女はハーキュリーズへ更に堪らない感覚を寄越した。行き場を無くした両手は薄汚れたシーツを掴み、声には確かな甘さが乗る。寝台の大きく軋む音も耳に入らなくなった。
「あぁああっ……!」
 内部が強く収縮し、欲を搾り取るが止まらない。すぐに再開した動きと激しさを受け入れている事で、次を求める己をハーキュリーズは認めた。



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