鍵とある日々


■-2

 寝台に寝転がるアキリーズの体へ、いつものようにユリシーズが絡み付いている。煩わしく感じた事が無く、また疑問を持たない事実に、自身の甘えを知るしかなかったのもいつの事だろうか。ユリシーズの翼に生え揃った羽毛の与える温もりで徐々に眠りへ沈んでいたが、ふと現に戻って口を開く。
「そういえば」
「何?」
 欠伸混じりの声にユリシーズが首を傾げた。上機嫌な表情はアキリーズ以外には見せないものだ。
「鍵は持ってる?」
 言いながらアキリーズは、自身が持つ鍵を摘まんでユリシーズに見せた。一見すれば解錠以外の機能を持たなさそうだが、僅かに魔力が込められているようだ。
「うん」
 ユリシーズは身を起こして荷物を漁り、すぐに鍵を取り出す。整理整頓には無頓着だが物を失くした事が無いのは、風の精霊の持つ風読みの力で全てを把握しているからだ。その力の強さは、ユリシーズから僅かに風を授かっただけで視力以上の物体認識力を持つようになったアキリーズ自身がよく知っている。
「君は夜、僕は風だったかな」
 名の付けられた鍵はそれぞれに短い説明が添えられており、他の四人も深くは受け止めていまい。だが妙に気になるのは、微かに何かを言い当てられた気分の所為だろうか。
 再びアキリーズへ覆い被さり、ユリシーズは小さく笑う。
「アキさん。自由って、やっとあったね」
「そうだね」
 アキリーズの風の鍵が意味するのは、何物にも囚われない自由だと記されていた。少し前までは生きる自由、死する自由すら奪われようとしていたが、それも今は密やかになり、ささやかな命を気侭に謳歌している。
「君の鍵も、奔放だって意味では自由なのかもね」
 ユリシーズの持つ夜の鍵は深淵なる甘い秘密を意味していた。秘めるものは時に激しく誘い、暗く呑み込むのだろう。そして秘めるにも、ある程度の自由が必要だった。
 少し考えてから、ユリシーズはまた嬉しそうに笑う。
「一緒に生きてる事、秘密だね」
 同種族から処分対象とされたユリシーズと、不可抗力とはいえ幾多を手にかけたアキリーズがこうして生き長らえているのは、他者からすれば罪深い秘匿だろう。その危うく狂おしい時を共有する事はまさに甘美だった。
 アキリーズの細めた目には、確かにユリシーズが映っている。光を失った目は相変わらず興味に正直だ。
「くく、よく出来ている鍵だね……」
 絡む指の間で、ぶつかった鍵が小さく音を立てた。





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