「多重モノがたりへようこそ」あらすじ


■-3

  はじめから
 ▷つづき



「起っきろーっ!」
 耳をつんざく声に叩き起こされ、混乱しながら飛び起きる凍霞。側には五階にはいない筈の鳥系モンスター・アルバトロスがいた。咄嗟に五階で入手した銃・デリンジャーを取ろうとするが、その手は空を掴んでしまう。
 見回すと今いる場所が宿屋だと解り、助けられたのかとも考えたが、窓の外を見ると不完全な英雄の像が見えた。此処が先日訪れた英雄の町だと悟るが、像は完全な姿へ戻した筈だった。
 ますます混乱していると部屋の扉が開く。入ってきたのはもう一人のアルバトロスとエスパーの女だった。
「ああ、やっと起きたんだ」
 入ってきたほうのアルバトロスの待っていたような口振りを対価の要求なのかと考える凍霞へ、煩いほうのアルバトロスがやはり喧しく告げる。
「さっさと準備しろよ! 今日は剣の王のところに行くんだろ、忘れてないだろな凍霞!」
 教えていない筈の名を呼ばれ、凍霞は先程見付けたロングソードを掴むと素早く抜き放ちアルバトロスへ突き付けた。
「ひ!?」
「お前、一体何処で……!」
 恐怖すら覚える凍霞へもう一人のアルバトロスが焦って告げる。
「凍霞!? どうしたんだよっ」
「お前もか!? どうやって俺の名前を知った、お前らは誰なんだ!?」
「はぁっ!?」
 疑問の声を上げる二人のアルバトロス。その時、無言だったエスパーがアルバトロス二人を掴み、引き下がらせる。攻撃の予感に凍霞がロングソードを突き出すが、エスパーは避けずに腕を深く斬られるだけだった。アルバトロス達が悲鳴を上げる。
「……『五階にいた筈、浮島の上だった筈』」
 エスパーが静かに告げたのは、凍霞の思考だった。テレパシーで読み取っているらしい。
「『一人だった筈、武器があった筈』」
 言い当てられ凍霞が呆気に取られていると、アルバトロス二人が笑い出した。
「何寝惚けてんだよ!」
「お前一人じゃ五階なんか夢のまた夢だっての!」
「黙って」
 エスパーが二人に向かって腕を振るうと、麻痺爪により床に倒れる。
 エスパーは続ける。
「『追い回されて、疲れた、眠りたい、休みたい』?」
 のしかかる疲労感から凍霞は正直に頷くしか出来なかった。
「……その様子だと眠るのも無理ね」
 エスパーは倒れるアルバトロスを跨いで一度部屋を出ると、暫くしてケアルの書を持って戻ってきた。
「話しましょう。貴方が納得するまで」
 まず凍霞へ治癒魔法をかけるエスパーは、真っ直ぐに凍霞を見ていた。



 エスパーとアルバトロス二人は、ベーシックタウンのアドベンチャーズギルドで凍霞に誘われてパーティを組んだという。
「俺はあんた達の事を知らないし、パーティを組んだ覚えも無い」
 凍霞は迷い無く告げる。
「俺は記憶喪失になる程衝撃を受けたのか?」
「いいえ」
 否定するエスパーにも迷いは無い。
「此処には昨日着いたばかりと言っていたが、俺には何週間も前に来た覚えがある。それだけじゃない、この先に起こる出来事も、塔の中も、一階には無い物や生物も知っているんだ。こんなものをただの正夢なんて言わない」
「では、三人の王全員に会い、クリスタルを手に?」
 エスパーの問いに凍霞は頷く。
「ああ。あんたにとって俺の言う事は予言だろうな。それが全て当たったら、少しは疑いが晴れるか」
「今は貴方を信じる事も疑う事も出来ない、真偽を確かめられる情報が無いから。それに、突然嘘をつく理由も、それによる利益も、パーティを組んでいる以上無い」
 エスパーの指摘に凍霞は胸中を刺されるような心地になる。一人旅など、本来ならば自殺行為だ。
「……それもそうか。それじゃあ今、何処まで何をした? キングの装備は手に入れたか?」
「キングの鎧は手に入れた」
「じゃあ今度は剣の王だな。あいつは凶悪だ、城の中にモンスターを飼っていて、殺人鬼といわれるだけあって容赦が無い。剣は破壊力が半端じゃないが、鎧が中和作用を持ってる。本人は普通の人間だ、そんなに強靭じゃない」
「盾の王は」
「大臣が反乱を起こして殺された。大臣が盾を奪って逃げたが、すぐ捕まえた。銃なんて持ってたけど、ろくに撃ててなかったな」
「それで、装備が揃って、英雄の像へ装備を戻したのね」
 エスパーの言葉に凍霞は嫌な記憶を漁る。
「そうだ。そしたら黒のクリスタルが出てきた。けど、小綺麗なやつに聞かなかったか? クリスタルは玄武とやらが隠した代物だと。その場から離れようとしたら、街の中でいきなりそいつに襲われた。亀みたいだったがでかくてな、咬まれまくったし、甲羅で剣を折られたり、毒霧にやられた」
 毒に侵され生死の境を彷徨ったのも記憶に新しかった。
「……取り敢えず一階での出来事はこんなもんだが、どうだ」
「充分」
 エスパーの静かな声の後、下から声がする。
「誰がそんな話信じるかっての……」
 まだ痺れているアルバトロスがか細く喋った。
「妄想じゃないのか……」
「妄想にしても具体的すぎる」
 アルバトロス達へ振り返ったエスパーが迷い無く言う。そして凍霞へ向き直った。
「塔を上る、貴方と私達の目的は合致してる。少なくとも私達には、此処で解散する理由が無い。貴方は?」
 問われて凍霞は戸惑ったが、やがて決心した。
「お前の言う通り目的は違わないし、誘った俺に責任があるだろうしな。この侭四人で挑もう」
 そうしてエスパー・フレイ、モンスターの双子の兄ビジョン、弟ミゼレイと共に旅を続ける。



 道中、凍霞が一人旅では出会わずに終わったレッドブルとの戦闘となる。
「ビジョン! もういい、退くぞ!」
 執拗に攻撃を続けるビジョンへ凍霞が叫ぶが、ビジョンは耳を貸さない。かなりの傷を負わせてはいるが、凍霞達も戦いで消耗していた。
「ぜってえ食ってやる!」
「ああなると兄貴は止まらないからなあ」
 ミゼレイが呑気に言う。凍霞の苛立ちは最高潮だった。
 凍霞の放った矢がレッドブルの目を捉え、怯んだ隙を狙いビジョンとミゼレイがつつきにかかるが、振り上げた頭の角がビジョンの嘴を砕き、ミゼレイの翼を貫いた。
 レッドブルはテレパシーで回避に専念させていたフレイへ狙いを付ける。気付いた凍霞が駆け寄りロングソードで斬りかかるが、レッドブルはロングソードを噛んで止めた。思わず驚く凍霞はその侭振り回され、飛ばされて盛大に転がる。
「逃げろ!」
 凍霞は不可能を解ってフレイへ叫ぶ。その瞬間光の柱が現れ、レッドブルはその場へ倒れ伏した。
「すっげー、テレキネシスじゃん!」
 嬉々とするミゼレイ。フレイは突然変異したらしい。
 レッドブルへとどめを刺したが、血塗れの三人ではこれ以上進めず、町へ引き返した。
 一体誰が悪いのか。凍霞は胸中で毒突いた。



 元々は凍霞もパーティを組んでいた。
 だが、その中で悩み続けていた。
 見返りを求める強欲さ。
 仕損じた際の原因のなすり付け合い。
 助けられてちらつく足手まといの烙印。
 町を一歩出れば無法地帯である事に乗じて、身勝手になるしかなかった。
 だからこそ、独りで挑んでいた。



 二度目の道中ではレッドブルに遭遇せず、無事剣の城へと辿り着く。
 喧しく勝手気侭なビジョンとミゼレイに凍霞が苛立っていると、騒ぎを聞き付けたモンスターが向かってきた。
「うわっ、もう見付かった!?」
「あんだけ煩けりゃ見付かるわっ!」
 城内をひた走り、立ち塞がるモンスターをすぐさま打ち倒すが、その中で徐々に傷付いていく四人。途中で聞き覚えのある唸り声が響き、背後を振り返ると突進してくるレッドブルの姿があった。
 凍霞は一目散に三階への階段を駆け上がり、全員が室内へ入ったところで扉を閉める。衝突したレッドブルが階段を転げ落ちる音に安堵したのも束の間だった。
「助かったあ……」
 その場へへたり込みそうなビジョンとミゼレイへ、凍霞が厳しく告げる。
「呑気な事言ってんじゃないぞ……」
「それも今の内であろうな」
 言葉に振り返ると、やはり剣の王がいた。
「何だ!? お前誰だ!」
「アホ! 玉座が見えねえのかよ!」
 血の巡りの悪いミゼレイをビジョンが叱る。
 凍霞はロングソードを構え、剣の王へと告げた。
「剣の王、悪いが今回も勝たせてもらうぞ」
「言葉の訳は解らんが、威勢はいいな。良かろう、かかって来い!」
 そうして剣の王と斬り合いになる。

※メタ
 小説としての書き起こしは此処まで。



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