あなたの夢おてつだい だけ します


■-4 夢を抱えて笑う

 昔、前の僕が生まれるずっと前の事。
 何処かの遺跡には宝を守る守護者がいた。宝と守護者の噂は何処からか広がって、次々に挑戦者が現れた。
 ある日、守護者はばらばらになって、挑戦者は一人だけ瀕死で生き残った。少しだけ挑戦者が強かったみたいで、挑戦者は遂に宝に辿り着いた。守護者が守ろうとした高い台座によじ登って、見えた。宝は無かった。
 怒り狂う挑戦者に守護者は言った。お前の挑む心が宝だ。それなのにどうして怒るのか。
 挑戦者は、下にある仲間の亡骸を見た。そして静かに台座から落ちて死んだ。
 守護者は嘆いた。そして、ばらばらにされた自分の体を復元しようとした。
 けど、体は何処にも無かった。代わりにあったのは、何処かの世界に繋がる時空の歪み。世界渡航も歪みも珍しくないけど、遺跡に発生したそれはイレギュラーなものだった。追いかける前に歪みは消えて、体の行方は解らなくなった。
 守護者は剥き出しの本体で世界を彷徨った。片っ端から別の世界に行った。やっぱり無かった。
 がっかりして、気付いた。今度は自分が求める側になってる事に。そうして、自分がものを知らないって知ったんだ。何かを求める行為が当然の事なのもこの時知ったみたい。
 守護者は一つの世界に留まった。技術の坩堝の世界、人の手による煌びやかな理想郷、シャンデ・グリ・アラに。其処で色々なものを学んで、研究して、世界を一つ作り上げた。それが此処、夢工場。
「じゃあ今は守護者でも何でも無い訳だ」
「そうだな。この点は何処かの死に損ないと似ているな、蓋をした過去に付きまとわれる愚か者だ」
 付きまとわれるって随分恐ろしい言い方だけど。
「蓋した中身で闇鍋でもしてるんでしょ」
 フィオリも僕も、過去が怖くない筈が無い。頭の悪い自分に、不自由な自分に戻ったら、それこそ恐ろしいんだ。けど。
「ははっ、大層緊張感溢れていていいな」
 過去に構ってあげる暇だって惜しい。フィオリも僕もそういうやつだ。
「で、フィオリは今も自分の体を探してるの?」
「いや、もうどうとでも良くなった。体を換えても私が私である事が変わらなかったからな、執着する理由が無くなった」
 フィオリにとって、体はただの部品なんだ。そういう考えを丸ごと世界にしちゃったんだから、大胆だって言っていいんだろう。
「前置きは此処までにして漸く本題といこう。私の夢は、宝探しだ」
 フィオリは横になってぐうたら寝そべった。ちょっと解りづらいけど。
「私にとって宝とは何か。後生大事にしていた身体がどうでも良くなって以降、延々とそれを探している」
「ふふっ、そんな格好で言ってもね」
「焦ったところで解らんのは変わらんからな。まあ予告した通り下らん夢だ」
「そうだねえ。けど」
 僕は果物をぽいと投げて、フィオリの口に入ったのを見てから続けた。
「退屈しなさそうだから、それでいいんじゃないの」
 フィオリは果物を飲み込んで、舌舐めずりをする。
「ベンヴィ。お前も退屈させてくれるなよ」
 フィオリと僕は、きっと同じ夢を抱えてるんだろう。解らないものを求めて、下らない事に笑うんだ。
「僕に期待するなんて、今の果物腐ってたかな」
「腐りかけだろうな、実に美味だった」
 それって、きっと楽しいじゃないか。
「えー、僕が食べたのも?」
「今度は見分けられるようになっておく事だな」
 ちりんちりん、其処で呼び鈴が鳴る。
「あれ、もう次が来た」
「そんな時もあるだろう。行ってこい」
「はいはい」
 下へ伸びる帯を滑り下りる僕の耳に、フィオリの軽い笑い声が届いた。



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