あなたの夢おてつだい だけ します
■-7 どっち付かず
今回の依頼者は人型の機械だ。思考回路もしっかりしてて、もう魔力へのアクセスが、魂が出来てるんだろう。じゃないと此処にも来てないだろうし。
「僕はどうしてもやりたい事があって、その為に有機物に、でも死なないようになりたいんです」
「それって、不死になりたいって事?」
もしそうなら無理だった。不死については解明されてないメカニズムが多すぎて、特に精神異常を都合良くリセットする仕組みはまだ再現不可能だ。これが無いと狂った不死者が延々暴れ回る事になる。体についても、此処に不死性を持つ体のデータは無い。
「いえ、そうではなくて」
依頼者が首を横に振るのもスムーズだ。
「老化には逆らいません。ただ、不慮の事故などによって死ぬ事を出来るだけ無くしたいんです」
天寿を全うしたいって事かな。そう思った時、上から声が聞こえてきた。フィオリだ。
「ふむ、単純な体のほうが希望に沿えるかもな」
「単純、とは?」
フィオリは顎で本棚に合図して、其処から飛んできた一冊の本がパーツを示した。出てきたのはゼリー状の体だ。
「これは……丈夫なんですか?」
「殆どの物理的な攻撃は跳ね返し、熱、水、毒性にも強い。そして処理能力は据え置きだ」
単純な体だと処理能力が落ちるのが大半らしいけど、フィオリの技術で其処ら辺上手く出来るみたい。
「では、速く移動出来ますか?」
「這うと並程度だが、跳ねると速く動ける」
依頼者は少し考えてから、またフィオリに尋ねた。
「有機物の心臓は、付いていますか?」
回りくどかったけど、此処がメインの望みだった。
フィオリと僕は光景を、あの人が死ぬ直前を見てた。
「これなら、拒絶反応も出ないから」
あの人の生みの親は心臓がとても悪かった。其処で機械の心臓を作ったけど、何度やっても馴染まなかった。今のあの人には必要な心臓は、生みの親に合うものになってる。
あの人は、深く深く空気を吐いた。それだけの事が、あの人があの人だって証拠だった。
「どうか……どうか」
後の全部を周りの機械に任せて、あの人は自分の体で守り通した心臓を自分で操作した機械で取り出す。
崩れたゼリーと、その前で始まった移植手術を見ながらフィオリがのんびり呟いた。
「これを損失と見るか、利得と見るか。見解は分かれるだろうな」
「フィオリはどっちなの?」
「この場だけを見れば完全な損失だが、総合すれば利得かもしれん。未来の勘定は解らんものだが、信じたいものでもあるな」
あの人が出来るかもしれなかった事と、あの人が助けたかった人の出来るかもしれない事、どっちが重要かなんてあの人にも解らないんだろう。
「まあ私達とて、次の瞬間世界ごと木っ端微塵などという事もあり得るからな」
フィオリの言う事は冗談でもない。世界破壊なんてのを出来て、平気でやる奴もいる。
「どうなるか解ったもんじゃないよね」
それは気を張って生きても、適当に生きても。
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