あなたの夢おてつだい だけ します


■-8 恐怖と過ごす

「ねえフィオリ、ちょっと訊いてみたいんだけど」
 夢工場には結構な期間誰も来てない。機械を織り交ぜてカードゲームをしながら、僕はフィオリに話しかけた。フィオリは平気そうな顔して実はピンチだ。早く手放したいカードをずっと持ってる。特別弱い訳じゃないけど、強いって言ったら大嘘だ。
「余裕を見せ付けてくれるな」
 元からばればれだけど、こういう時のフィオリって墓穴を掘りやすいな。
「はいはい。でさ、フィオリの意見も聞きたくてね」
 機械がフィオリの嫌なところからカードを引いたところで、僕は話を続けた。
「怖いって感情はさ、なんで馬鹿にされるんだろう」
「ほう、それに関して、お前の意見はどうだ?」
 フィオリはカードを扇みたいにひらひら振る。今回は手持ちのカード多いなあ。
「馬鹿にする人は、物事を面倒臭くて考えたくないのかなって。怖いって、怖いものから何かされる前にもう思ってるものだから、それについて考えてるよね。怖くないから突撃っていうのが考え無しに思えちゃって」
「ふむ。恐怖は物事についての思案、恐怖を持たん者は考え無しか。半ば程は賛同しよう」
「じゃあ、あとの半分は?」
 僕はカードを山に捨てた。上がりだ。
「恐怖を持たん理由が理にかなう時もあってな。思案した結果、その恐怖すべき対象を雑魚だと見做した時だ。例を出そう、お前は一枚の紙が怖いか?」
「別に怖くないけど」
「ではその紙を細く巻いて作った槍を、お前の眼球に突き刺したらどうなる? 前のお前では死ぬ事もあるだろうな」
「そりゃ怖いよ」
 フィオリがやっと山にカードを捨てる。
「そのような事が起こらん保証、紙がお前を殺さん保証は何処にも無い。だがお前は紙は怖くないと言った。何故か? 紙はお前にとって雑魚だからだ。紙に殺される確率は高くないと経験が知っているからだ」
 其処ら辺の紙一枚に殺されるって事はまず無い、けど、あり得ない事じゃない。そんな可能性はしっかりある。
「経験の違いから馬鹿にするかしないかが決まるって事かあ」
「品性を加味しても其処が大きいだろうな。恐怖を踏み台に課題を攻略しようと試みるのも、恐怖したものの重要性を知る経験からだ」
 フィオリと僕が過去を怖がるのもきっと一緒で、二度と戻りたくないくらいの駄目さを今は解ってるからだろうな。
「経験ってやっぱり大事なんだね」
 怖がらない為の経験、怖がる為の経験。そして向き合うそれをどうにかする為の経験。いつでも何処でも使うもの。
 フィオリも僕も、前も今も、そんな経験がずっと連なってるんだろう。



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