あなたの夢おてつだい だけ します


■-9 気も病から

「タフだなあ」
 僕は体を換えた後の依頼者を見て、つい言葉が出た。フィオリはもう見ようともしないで、僕に溜め息をつく。
「聞き飽きたぞ」
「他にどう言ったらいいのさ」
 依頼者は何か書いてる。ぜえぜえ苦しそうな依頼者の横で。



「どうだろうっどうだろうっ」
 医者だっていう依頼者は物凄い勢いで僕のちっちゃな肩を掴んで引き寄せた。それからがくがく揺する。
「ちょっ落ち着いてっ離してっ」
「おおっ済まないっ」
 ぱっと離される。頭がくらくらする事は無いけど気分は良くない。それくらい圧が凄い。
「あのさ……取り敢えず要望が抽象的で解んないから、詳細を教えて」
「よくぞ訊いてくれたっ」
 この人の要望は、強く弱くなりたいってものだった。強くも弱くも片方ならまだ解りそうな気がするけど、両方じゃないと駄目みたい。
「端的に言おうっ、私はあらゆる病に罹りたいっ」
「病気になってどうするの?」
「それを研究したいっ、あわよくば治したいっ、より良い治療法の探究をしたいのだっ」
 自分で自分を実験台にして、病気の研究をするなんて相当だ。
「うーん……。病気にはなりたい、けど絶対に死んじゃ駄目かあ……」
 強くて弱い、そういう事か。
「やはり無理難題かっ」
「……いや、ちょっと待って」
 思い出したぞ。あれならどうだろう。
「あんたの夢、別の形でなら手伝えると思うけど、一つ条件があってね」
「なんとっ良い体があるのかっ」
 依頼者は拳を作ってヒートアップしてる。また肩を掴まないでほしいな。
「あんた、あんたの所為で何回も死ねる?」



 依頼者が換えた体は分裂する体。魂は繋がってるから、一人が複数の体を同時に動かす感じだ。分裂したサブの体はあの人の調整で免疫力が低くなってて、病気に罹りやすい。
 周りの人がざわざわどよめく中で、中心にいる三人があの人だ。
「とくと見よっ」
 データを周りに見せてたメインのほうが、病気になったサブの二人の腹を切開した。二人共意識が無いから麻酔してるみたいで、片方は顔色が凄く悪い。メインは中身を弄って周りの人に内臓を見せてる。見せたのは同じ内臓だけど、見た目が全然違った。
「症状を総合してっ例の薬品は効かぬっ、一方でっこちらの薬品に一定の改善効果が認められるのはっ見ての通りであるっ」
 そうして、信じてた薬が薬でも何でもない事と、本当に効く薬の事を立証してた。薬を信じてた周りの人はショック受けてて、あの人の立証を覆せないって事を立証してた。
「やっぱりタフだなあ。あの人が死ぬの何度目だろう」
 生き続けるメインの体にはサブの体の苦しさも伝わってる。それも全部データにして満足してた。
「よくも飽きずに見ているな」
 肩を竦めて溜め息をついてるけど、フィオリだって映像を消さなかったじゃないか。
「なんか面白い人だったからさ」
 世間ではああいう人を狂人だって言うかもしれないけど、新しく役立つ事を見付けるのは大抵ああいう熱意のある人だ。



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