あなたの夢おてつだい だけ します
■-14 約束の歌
海原を、草原を、大空を、歌が響き渡る。
それはあの人が望んだ、たった一つだ。
「ぼく、呪いのピアノになりたいな」
弱って枯れた声で、依頼者は僕に言った。
「呪いって、どんな?」
依頼者はにこにこしてる。
「勝手に鳴るやつ」
「怖くて壊されるかもよ?」
「怖くないようにするよ」
「出来るの?」
僕が首を傾げても、依頼者の顔はその侭だ。
「出来るよ」
僕はちょっとだけ、この人が羨ましかった。
「堪えたか」
箒を抱えて丸まってる僕にフィオリが声をかけてきた。別に何ともない調子だった。
「ちょっとね」
だからちょっとだけ素直になれた。
「周りに自分の事、伝えられてたからさ」
何が好きで、何が嫌いで。そしてそれをどうすれば伝えられるか、僕よりは解ってた。
ピアノが鳴る。明るい調子の曲を流す。それは弱る前に作ってた、未完の歌の続きだ。完成した歌は知れ渡って、ピアノが自然に壊れた後には世界中で歌われるまでになった。
「もしみんなに伝えられる体があったって、僕はあんな自信満々に上手く出来なかっただろうなあって」
これは後悔じゃない。もしもの話はあんまり好きじゃないし。
そうして歌が辿り着いたのは、遠い町にいる友達のところ。行商人一家の友達は、歌を聴いてあの人を思い出した。遠い遠い昔に出会った友達の事を、歌を完成させるって約束の事を。
フィオリは溜め息混じりに言う。
「お前の性格上、上手くやるのは難しいだろうな」
「まあね」
前の僕は全然出来なかったけど、今の僕はちょっとだけ出来てるって、話しながら思えた。
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