あなたの夢おてつだい だけ します
■-18 いついつの日か
「僕、いつ死ぬのかな」
独り言だったけど、それが聞こえた本棚の一つが僕に詰め寄った。結構小さめだけど迫力が凄い。僕は本棚に掌を振った。
「そんな切羽詰まった意味じゃないよ。ただ何となく気になっただけ」
僕が体を換えてから何年経ったか、正直覚えてない。数えてた時もあったけど、多分三年くらいでやめた。
「この侭身も心も死なないってのは絶対に無いからね。レキがそうなんだし」
不死鳥のレキが精神の限界を迎えるように、僕も体が生きてたって精神が壊れるかもしれない。
「もし僕の精神が体よりも、フィオリよりも先に壊れたら、フィオリはきっと僕を殺すと思う」
本棚が僕から離れて前のめりになった。項垂れて落ち込んでるのかな。
「けど、それでいいかなって。格好悪いところなんて誰にも見られたくないし、止めてくれる人がいるって、やっぱり有り難いよ」
僕は本棚の角を撫でた。この本棚にも意思がある。意思があるって事は、いつか死ぬって事だ。
「怖い話をごめんね。けど、考えとくのも悪くないよ、きっと」
何処までも続く空間を見ると、空間を泳ぐ本棚の群れが見えた。
フィオリからメンテナンスを知らされた。対象は空間、本棚達、そして僕だ。
「僕のメンテって?」
「体と魂のがたが来ておらんか検査する」
「ああ……」
続きの代わりに、僕は気になった事を訊いてた。
「フィオリはどうするの?」
「私も検査するが、全ての後だな」
「全部終わるまで結構かかるの?」
「いや、時間にして計一時間半といったところだ」
「その間、淋しくない?」
気付けば僕は訊いてばかりだ。それだけ不安が膨らんでたって事なんだろう。
「その言葉は後でその侭返してやる」
「はいはい」
相変わらず憎たらしい顔してるけど、フィオリらしいから安心出来た。
「其処に立っているだけでいい」
僕は言われた通りにフィオリの前に立つ。
「それでは、開始するぞ」
「うん」
返事した途端に光に包まれたところまで解ったけど、意識が無くなったって気付いた時にはもう終わってた。
「え、終わり?」
「終わりだ。お前にとっては一瞬だっただろうがな」
フィオリは光の図面を見ながら頷いた。
「なかなか頑強、がたの一つも無いときている。健康そのものだ」
「そっか、良かった」
いつでも油断は出来ないけど、健康を喜ぶくらいはいいよね。
フィオリが図面を消して僕に向き直る。
「さて、私も三十分間の整備だ。留守を頼むぞ」
「いってらっしゃい」
フィオリの体が光の柱に包まれた。今から三十分、何しよう。
考えてる途中で本棚が何か伝えたいように動いてるのが見えた。僕が手招きするとすっ飛んでくる。僕のあの独り言を聞いた本棚だ。
「どうしたの?」
僕が言い終わらない内に本棚から記録媒体が一冊出てきて、開くと映像を見せてくれた。端っこには秘密だよって書いてある。
「これ……」
光の柱の前でフィオリが光のキーボードで作業してる。僕のメンテをしてる時の光景だ。
フィオリは黙って作業してたけど、途中で映像に倍速が入って、また等速になったところでフィオリが呟く。本当に小声だった。
「……静かなものだな」
其処で記録媒体が閉じて映像を終わらせる。もしかして本棚は僕の事を心配してたのかな。
「本当に秘密だね。有り難う」
フィオリがいる光を本棚と見ながら、僕は内緒話に笑った。
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