あなたの夢おてつだい だけ します
■-20 人それを神という
今回の依頼者は詩人。竪琴で弾き語りをしているんだって。
「色々歌ってきたんですが、限界を感じてしまって」
「じゃあ、声帯でも換えたいの?」
すると依頼者はぶんぶんかぶりを振った。
「違うんです! 限界を感じたのは、私の口が一つである事です!」
「それじゃあ、一人でハモりたいって事かな」
今度はうんうん頷いた。
「そうです! その為にも私は、私の声を出せる器官が複数欲しいんです!」
そうなると必要なのは声を出す器官だけだから、体まで分裂しなくていい。
「そっか、じゃあ……」
僕が考えてると、依頼者は注文を付けてきた。
「出来ればあと五つは欲しいですね」
「え、そんなに?」
「バス、バリトン、テノール、アルト、メゾソプラノ、ソプラノ。声域は六種類全て出せますので。一つ足らずの七色の声と評するかたもいらっしゃいました。これで竪琴が爪弾けたならばもう御の字です」
口だけが沢山ある体は竪琴が弾ける体じゃなかったな。そうなるとあの体だけど。
「希望を満たせるものがあるにはあるんだけど、ちょっと……」
僕は本棚を一つ呼び寄せて、本を一冊出してもらった。開いたページから体のパーツが投影される。
「ふむふむ……成る程、これは問題ですね……。しかし己が力の見せどころでもありましょう」
そうして依頼者は体を決めた。けど、降りてきたフィオリが作業する横でどうしても心配になる。
「この体、あの人の世界じゃ強すぎないかなあ」
「振り回されんよう努めるしかあるまい」
あとは本当に依頼者次第だ。
フィオリと僕は席に着いて演目を観てる。
依頼者の体は頭が八個になった。その内の六個からは依頼者の声で違う音を、ハーモニーを歌う。あとの二個をどうしようか考えて、声を活かして色んな人物の台詞を言う事にした。その為に演じる技術もかなり磨いたみたい。
一人ミュージカルの噂はたちまち広がって、あの人目当てに来る客も沢山いる。激しく動いて表現する事は難しいみたいだけど、役者としての技術も高く評価されてる。
演目が終わって拍手が起こった。僕も拍手する。
「凄かったね」
隣でフィオリも触手をぺちぺち叩いてる。
「この迫力、大したものだ」
拍手にあの人は六本の腕を振って応えてた。
あの人の評判を表す言葉は色々あった。どれも褒めていたけど、あの人はきっとそれに満足しないんだろう。これは全知全能じゃないから努力した、体を換えても不自由な自分の手で掴んだあの人の夢だ。万能な言葉だけで片付けられても困るかもしれない。
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