解
■-2 「+1」
何かが派手に倒れる音で目が覚めた。
音のした方を向くと、あのがらくたが椅子から転げ落ちている。こちらにはまだ気が付いていないようで、足と腕を藻掻くように動かしていた。
黙って様子を窺っていると、がらくたは机の上に腕を伸ばす。花瓶に触れて無機質な音が鳴る。力が抜けたのか、花瓶を握った腕が落ちていく。花瓶は此処に来た時から置かれていたもので、中には埃しか入っていない。
軽く声をかけると、這いつくばったがらくたは振り返る。それから、苦笑した。
彼が花を好むように見えたのだろうか。
昨日の収穫を金に換えて物資を調達しようと、酔い潰れて眠った侭の者を除いて出かける。酔い潰れていて開ける者がおらず、面倒なので鍵が朽ちて使い物にならない裏門から出て行った。
山を下り、町への道とは違う道をゆき、街道でこの時刻に必ず通る馬車を拾う。念の為に全員ローブを深く被っているが、町の者が乗っているのを見た事は無い。
別の町の裏街道で盗品を金に換え、酒と食料を調達する。その後はうらぶれた酒場で帰りの馬車を待った。夕日が見える頃には行きとは折り返しになる馬車へ乗り、最初に乗った場所で途中下車する。
その後はただひたすらに歩き、雪山を登り、古城へと辿り着く。飲んだ酒が干上がるとの文句はいつもの事だった。
「おい、門が開いてるぞ」
言葉に目を遣ると、確かに裏門が大いに開いている。閉めたのは彼であり、確かに記憶があった。
誰か出たのだろうか。しかし寒い事を嫌がるのだ、可能性をすぐに打ち消す。
妙な胸騒ぎを覚え、一人に荷物を押し付けて彼は自室へと戻る。
自室の扉も開いていた。もしやと中を見ると、がらくたがいない。
急いて城を出て行こうとする彼へ、頭から声がかかった。
「どうした」
「がらくたがいない」
彼の言葉を聞いた途端、頭の顔が赤くなる。
「なにい、あのがらくた、早速裏切りやがって」
そもそも仲間になる約束などしていないのだが、意味の無い反論に構う暇も無かった。彼は再び裏門へ向かい、辺りを見回してみる。すると先程の足跡の他に、一本足が続いている事に気付く。それを追うと、何かが倒れた跡のようなへこみも幾つかあった。
思わず駆け出すと、すぐに見付かった。多少鮮やかな色が雪に埋もれている。此処は急な坂であり、転んで大いに転がったのだろう。
抱き起こしてみると、薄く一つ目が開く。何事か呟き、弱く今朝のように苦笑した。手には埃に塗れた花瓶が一つある。
彼はがらくたを肩に担いだ。戻ると、苛立った頭ががらくたを捕まえようとしたが、それを軽やかに避けて一言だけ報告する。
「花瓶に花を挿したかったらしい」
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