無間の幽鬼


■-4

 頼り無い歩みの所為か、町には一向に近付いていないような感覚がする。
 疲れ果てて眠れば、またあの惨事が起こるのだろう。しかしセメンツァは、フレイアルトへ言葉をかける。
「ねむった、ほうが、いい……」
「嫌、です」
 ふらつく足取りは精神の不安定からも来ていた。油断すれば崩れ落ちてしまうだろう。
「フレイアルト……」
「嫌だって言っているでしょう」
 邪険になってしまう。違う、こんな事をセメンツァへ言いたいのではない。
「わたしは、だいじょうぶ、だから……」
 セメンツァの言葉に、フレイアルトは立ち止まる。そして次の瞬間には『ばけもの』が姿を現わした。その爪を、棘を、一斉にセメンツァへ向ける。
「大丈夫じゃあないんですよ!」
 セメンツァは動かない。その胸中を推し量る事は、フレイアルトには出来なかった。
「貴方は怖くないんですか!? 命も持たない『ばけもの』の俺が! 貴方を殺しかけた俺が!」
 荒い呼吸だけが響く中、セメンツァはゆっくりと口を開いた。
「こわい……」
 紫色の双眸から、大粒の涙が零れ落ちる。
「あなたは、かなしくて、おそろしくて、はかなくて……」
 優しい声に、フレイアルトの怒りが急激に冷めていく。そして寒さに震える。
「どうして……」
 人型へ戻り、セメンツァと対峙する。見詰めてくる瞳はやはりきれいだった。
「どうして俺なんですか、いらないから殺されたんですよ、俺は別に、いなくたって……」
 言葉の途中で、セメンツァが優しく身を抱いてくる。温かい。
「どうか、わたしを、ひとりにしないで……」
 小さな願いが、震える心を抱き締める。気付けばフレイアルトは泣き叫んでいた。必要とされた事、自分が去れば少女は独りになる事、そしてこれ如きの自分で良い事。全てが心を揺り動かす。
 この少女の全てを受け取ろう。そして、この少女に全てを捧げよう。それが苦痛を伴う依存であっても。フレイアルトはセメンツァへと誓った。



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