無間の幽鬼


■-6

 日が沈む。夜が来る。
 宿は取らず、町を出た。昼間に見た指名手配、生死問わずの貼り紙がちらついたからだ。もし宿で暴れ出し、指名手配になどされては堪らない。
 町へ入った場所とは丁度反対側の出入り口から、街道を歩く。暗い夜道に人の気配は無い。
 道を行く足は二人共裸足だ。セメンツァに靴を買おうとしたのだが、同じがいい、と言われてやむなく諦めた。再生力の賜物か、彼女の足が傷む事は無いのだが、傷付けてしまう事はあまり歓迎出来なかった。
 フレイアルトがその事を改めて考えていると、セメンツァがそっと呼びかけてくる。
「どうしました?」
 足を止めようとして、セメンツァが間髪入れずに言う。
「とまらないで……」
「あ、はい」
 取り敢えず歩き続ける。セメンツァは静かに告げた。
「けものが、にひき……、とまったところを、ねらっている……」
 夜行性の獣なのだろう。しかし耳を澄ましても何も聞こえない。フレイアルトは純粋に気になってセメンツァに尋ねた。
「何で解るんです?」
「たまに、まわりを、しらべていたら、みつけた……」
 解析用の髪の仕業か。索敵の役割も果たすらしい。偶にとは、セメンツァにも休みが必要という事なのだろうか。
「やっぱり凄いですよ、その力。獣はどの辺にいます?」
「ひだり……、フレイアルトの、まよこ……」
「そうですか」
 フレイアルトが立ち止まるが、セメンツァはそれを咎めなかった。
 セメンツァの言葉通り、左方の茂みから突然二匹の獣が飛び出してくる。しかし、跳びかかる二匹を幾本かの触手が網のように絡め取り、獣はその侭地へ叩き付けられて悲鳴のような鳴き声を上げた。
「狼……ですかね?」
 指を触手に変えたフレイアルトが、悠々と獣を観察する。中型の獣は、暗くてよく見えないものの、立派な体毛や長い牙を持ち、想像する狼の姿と大差無い。ぎろりとこちらを睨む瞳を見て、フレイアルトは嘲笑した。
「毛皮ってどう取るんですかねえ? まあお金はありますからいいですか!」
 瞬間、触手から幾つもの棘が生え、内側を突き刺す。全身を貫かれた獣たちは即死したようだ。棘へ生温かな体温や痙攣が伝わり、不愉快だったので元いた場所目がけて放り捨ててやる。
「これで一安心、ですかね」
 振り向いてセメンツァに言うと、こくりと頷きが返ってきた。
 また歩こうとしたフレイアルトは、まだ触手状の指を見詰めて少し考え込む。考えた末、指をその侭にセメンツァへ苦笑した。
「セメンツァ、これ……、してみていいですか」
 すると簡単に頷きが返ってくる。これは怖いもの知らずもあるとフレイアルトは笑いつつ思った。



 縛りはしない。彼女が何も抵抗しないからだ。体を支える為だけに手足に触手を巻き付ける。
 根元を締め上げられ張り詰めた胸が、突き上げる度に上下する。最初こそ操りきれなかったが、すぐにこつを掴めた。動きに合わせて先端も弄り、残ったものは後ろの窄みへ入れ込んだり、前の芯を捏ね回したりと忙しく動く。
 先程殺した狼と似たように体温が伝わる。今までも体温なら感じた事がある。だがセメンツァのものは何故か安心してしまう。他では感じた事の無い心地良さがあった。
 いつもは物静かな彼女の、甘く淫らな声が響く。脳髄に沁みて体がおかしくなる。もっと聞きたい、もっと感じたい、中毒にでもなった気分だった。
 今まで自分の快感のみを求めていたが、今は彼女の快感も考える。奥深く突き上げて押し付けてみると、甲高く熱の篭もった声が上がる。うっとりと快感に身を任せるセメンツァの姿に、禁忌を犯す背徳感のようなものを覚える。それは耐え難い誘惑で、容易く魅了されてしまう。
 やがて絞り取られるような締め付けに身を任せ、素直に達する。昔なら一度で満足していたが、今はもう一度と貪欲な考えが浮かぶ。萎えかけたものを再び突き込むと、また甘い声が上がる。この声を求めるのは何故なのか、勿論快感の為だが、それだけではないようにも思えた。
 幸せの怖さを考える間も無く、二人は行為に溺れていく。幸せが今しか無い事を、何処かで解っていたのかもしれない。



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