無間の幽鬼


■-7

 眠った後には悪夢が待っていた。
 フレイアルトは土まで掻き集めて叫ぶ。
 悪夢の後には現実が待っていた。
 いつの間にか降り出していた雨に、赤い液を流されてしまう。
 今日はどうだったのかなどとは、もう聞きたくもない。



 安心が欲しい。
 安心すると眠くなる。
 眠ってしまうと夢を見る。
 夢の後には惨状がある。
 惨状で擦り切れた心に、安心が欲しい。
 こんな悪循環はもう嫌だ。そう思い、彼は安心を諦めてみた。眠りの来ない日々など幾らでも過ごした事がある。
 しかし、強い目眩と共に気を失い、結局同じ事を繰り返しただけだった。



 今日も夜が来る。眠りが来る。悪夢が来る。惨状が来る。気が擦り減ったところへの更なる仕打ちだった。
 頭を抱え、爪を立てる。引っ掻く。どうしたら眠らずに済むだろう。がりがりと爪が当たって痛い。痛い。痛ければ、いいのではないか。
 決断は早かった。
「撃て」
 左腕が弾かれる。どす黒い血が流れる。
「フレイアルト」
「撃て」
 左足の指をごっそりと失くす。
「やめて……」
「撃て」
 ぴしゃりと目から液体が噴き出る。
「フレイアルト……!」
「撃て、撃て、撃って、撃てっ、撃て、撃て、ぅう、てっ、うっ、うっ、う、て、うてうてうてうてう」
 声が途絶えたのは喉を撃ったからだ。
「フレイアルトおおおっ」
 声が出ない。体が動かない。痛い。意識は痛みに持っていかれる。やった、これで眠らずに済む、良かった。
 視界にセメンツァが映る。
 そうしてある事に気付く。違う、彼女を守りたかったのに。どうして彼女が泣き叫ぶ事になってしまったのだろう。



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