無間の幽鬼
■-11
声がする。泣いているようだった。何の声かと思った時には、自身の今の名前だという事を理解する。
「フレイアルト……」
泣いている呼び声は、少女のものだ。闇に沈んでいた意識が浮上する。目を開けて体を起こすと、辺りを見回しながら泣いている少女が見えた。
ふと地面を見てみると、自分の体が見付からない。体が座っている感覚を伝えない。実体化さえ切れてしまう程に集中が途切れたらしい。
少し集中する。頭の中が浮遊感を訴えてなかなか一点集中出来ず、実体化した体は死体の姿だった。
少女がフレイアルトの姿を見付ける。
「フレイアルト!」
涙もその侭に、セメンツァは死体のフレイアルトへ縋り付いた。温もりに包まれながら、どうしてこうなったのかを考え、セメンツァの背後に気付く。壊れた彼女の頭が転がっている。そうだ、あれを、彼女の頭を食べてしまった。
「う、うっ、うう、うー……」
呻いてフレイアルトは涙を流す。悲しく、恐ろしく、どうしようもなく情け無かった。どうしてつまらない過去に、こうも容易く負けてしまうのだろうか。
セメンツァがフレイアルトの背を抱いて言う。
「わるくない……、フレイアルトは、なにもわるくない……、だから、せめないで……」
失う恐怖も置き去りにして、震える声が励まそうとしている。
「セメンツァ……」
髄の伸びた首を垂れて、フレイアルトは囁く。
「優しすぎますよ……」
何度も殺された彼女が、自分を恨む事は決して無かった。それどころか求めてくれている。慈しんでくれる。理由など無かった。強いて言うなら、彼女であり彼だからだ。
「ごめん、なさい……、本当に、ごめんなさい……」
諦めたくないが、謝るしか出来なかった。
Previous Next
Back