無間の幽鬼


■-14

 町へ入る前に、金の単位と硬貨の種類を確認する。そして量を確認して、フレイアルトはセメンツァに尋ねた。
「何か、食べたいものや欲しいものはありますか?」
 セメンツァは俯いて考え込む。収集した情報の中から探しているのだろうか。
「遠慮なんて無しですよ」
 そう付け加えてやると、セメンツァは目を泳がせる。もしや恥ずかしいと思っているのだろうか。やがて小さな声で告げた。
「おかし……」
 そういえば甘いものは食べた事が無かった。アイスは望めなさそうだが、ケーキ程度ならばあるだろうか。
「いいですよ。行きましょうか」



 それらしいカフェに入り、外の席を取ると早速メニューに目を通す。聞いた事の無い名前の食材があったが、周囲を見る限り下手物ではなさそうだった。セメンツァに尋ねてみると、これは林檎に似た味、マンゴーに似た味、と説明をくれたので安心して頼む事にする。
「好きなもの食べていいですよ、お金の許す限りですけれどね」
 自分はレモン風味のケーキでも頼もうか、と考えた時だった。またあの恥ずかしそうな表情だ。
「遠慮しないでいいですってば」
 苦笑して告げると、セメンツァがメニューを指差し始めた。
「これと……、これと、これ……」
「それは……周りの人がびっくりしますよ」
 一人でホールケーキ三つはやめておいたほうが良いだろう。



 結局セメンツァの注文二つに絞り、それでも多かったのでフレイアルトは自分の注文を取りやめた。大食いの二人程度で見られるだろうか。
 運ばれてきた小さなワンホールのタルトを切り分けてやる。セメンツァはその間にスポンジケーキを黙々と食べていた。黙ってはいるが髪は正直で、いつもよりうねりが大きい。
「美味しいですか?」
「うん……」
 食べる手を止めてから頷く。そしてまたフォークを動かす。可愛いと素直に思っている自分に気付き、フレイアルトは妙な気分になる。不快ではない。
 切り分けたタルトを食べてみると、赤い果物からバナナの味が、青い果物からパイナップルの味がした。爽やかな甘みだ。
「フレイアルト……」
 顔を上げると、口の端にクリームを付けたセメンツァの顔が見える。こういったところはまだ生まれたてなのだ。
「どうしました?」
「しあわせそう……」
 擽ったさを覚えながら、フレイアルトは笑顔で返した。
「貴方が幸せそうだからですよ」



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