無間の幽鬼
■-15
町の外、歩いて三十分はかかる地点だろうか。フレイアルトは草むらに寝転がる。一人きりだ。
セメンツァはせめて、温かく柔らかいベッドで休ませてやりたかった。被害が出ても面倒事が起きるだけだと、半ば無理矢理にセメンツァを置いてきた。
これでいい、いいんだろう、そう言い聞かせて、軽い目眩に身を任せて目を閉じた。
激しい風切り音で目を覚ました瞬間だった。
地鳴りが猛スピードで近付き、そして衝撃波となって体中を襲う。熱い、痛い、焼かれる。爆弾だ。
吹き飛ばされて尚聞こえる爆発の音。少し遠くで起こっては、すぐ近くで炸裂して身を焦がす。為す術無く吹き飛ぶ。ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、飛ぼうにも上手く集中出来ない。集中する時間が無い。
不意に自分の体が飛ぶ。いや、これは首が飛んでいるのだ。伸ばす腕も無く、ただただ灼熱を吹き飛ばされた。
気が付くと朝日が見えた。体は何処だと下を見ると、死体に戻されはしたが部位は繋がっているようだ。
朝日は石造りの遺跡のような場所を照らしている。この辺りに遺跡などあっただろうか。体を構築し、落ちていた服を拾って朝日の方角をよく見てみる。
人型と思しきものが幾つか倒れていた。少し経って、町の成れの果てだと気付く。すぐさま羽を生やして飛ぶ。
昨日の夢が広範囲だったらしい。よく見なかったが、辺り一面は木も岩も薙ぎ払われていた。
呻いている人々を無視して、町に入る。そしてセメンツァを泊まらせた宿付近へ降り立ち、ばけものの体で瓦礫を掘り起こす。
「セメンツァっ、セメンツァ!」
呼びながら必死に瓦礫をどける。途中死体が幾つも出てきたが、邪魔なので放り投げた。まだ息があったかもしれない。
見付からない。まさか丸ごと吹き飛んだのか。絶望が満たす。
「フレイアルト……」
背後からの声に振り返る。其処にはセメンツァが立っていた。立ってはいたのだが。思わず声を失くす。
触手を使って立っている。両足は膝下から失ったのか、血が滴っている。腕は無残に捩じれ、片方の目が出ている。
凍り付いたように動けなくなった体に、セメンツァが倒れ込むようにして抱き付いた。その温かさに漸く溶けた恐怖心が涙を零す。
「ごめん、なさい、ううっ、うっ、ぐ、ごめんなさい……」
「フレイアルト……」
見上げる事も出来ないのだろう、セメンツァはフレイアルトの腹に顔をうずめた侭で口を開いた。
「ひとりに、しないで……」
泣きながら頷く。それくらいしか出来なかった。
Previous Next
Back