無間の幽鬼
■-16
セメンツァの再生を待って、今更ながら不味い行動を起こした事に気付く。このばけものの体を、必ず誰か一人には見られているだろう。この瀕死の生物が多い中でも、見られてしまってはそれは敵になる。ばけものの姿はこの世界ではどうやっても怪物なのだ。
一人ずつ始末しようにも、最早誰の目に触れたのか解らない。既に此処を離れ、誰かに伝えられたかもしれない。そうなれば、町を破壊した怪物とでも銘打って噂は広まるだろう。悪い想像はしたくないが、それが自分達にとって重大な障害なのは見過ごしておけない。
まだ血塗れのセメンツァを抱いて、フレイアルトは上空へ飛び上がった。改めて見ても町は全壊している。
「セメンツァ、ごめんなさい、俺の所為でこの世界にいられなくなりました、今すぐこの世界を出なきゃいけません」
用件だけ急いで告げたが、セメンツァはすぐに口を開いた。
「このせかいの、じくうのゆがみは、あのやまに、あった……」
指差した方向、そして言葉から、空飛ぶ蜥蜴のいた山だと理解する。いつこの情報を仕入れたのか解らないが、彼女がそれを告げなかったのは必要性を感じなかったからだろう。
「通ってきたあの山ですね。案内してくれませんか」
セメンツァは頷く。
こんな逃避行を、彼女にさせていいものだろうか。考えたが、しない事を思うと憂鬱になった。
昼頃、山の手前で人型に戻り、今度は崖下となる道を行く。緑の生い茂る空気を楽しむ余裕も無く、セメンツァの道案内を頼りに進んだ。
小川を越え、石ばかりの地形になってきた頃だった。まるで祠のような石造りの小さなオブジェが見える。それを見た瞬間、周囲の状態にも気付く。腐ったにおいを放つ蜥蜴の死体が幾つも転がっていたが、問題は祠の手前に落ちていたものだ。
フレイアルトはそっと近付いて、腐ったのか、より原形を留めていないそれを見る。僅かに解る虹色が判断材料だった。
それの前に座り込み、背後のセメンツァに言った。
「これは、どうなるんですか?」
「すべて、つちになる……、それに、せいぶつの、ちからは、かりない……」
自身で分解して土に還るのか。フレイアルトは苦笑する。
「貴方は……本当に、本当にきれいですよ……」
そっと髪を撫でると、壊れて土に還っていった。
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