無間の幽鬼


■-20

 何処まで歩いたか、しかし草原はまだ続いている。山脈の直中にでも出たのだろうか、襲い来る生物も無く、すれ違う者もいない。緑の大地を二人で歩いて行く。飛ぼうかとも思ったが、目に眩しい緑をセメンツァに見せておきたかった。何故こう思うのか、緑は人間の手によるものではないからだろう。少なくとも人間が生んだものには美しさを感じられなかった。これは生前も同じである。



 日が沈み、夜が来る。もう怖いものは無かった。夜も彼の領分となった。
 ばけものの体に変化すると、現れ始めていた目眩も止まる。改めて自由を感じ、解放感に任せて草の地面に寝転がった。下半身に幾つか生えた棘がなかなか邪魔だったが、横たわるとそうでもない。
 セメンツァも倣って傍らに寝る。そしてフレイアルトの首に腕を回して縋り付いた。フレイアルトは久方振りの温もりに、体の奥が疼くのを感じた。
「セメンツァ。そんな事されると、余計にばけものみたいな事しますよ」
 冗談っぽく本音を言うと、セメンツァが頬を擦り寄せてきた。どんな殺し文句でもこれの前には勝てないだろうと、フレイアルトは負けた。



 柔らかな体を両手で揉みしだけないのがもどかしい。指を触手に変化させ、軽く巻き付けて体を浮かせる。揺れる胸元へ締め付けと緩みを繰り返して代用とした。先端を平たい指で舐め擦ってやる。
 牙が並ぶ口では無理だが、長い舌で彼女の口内を味わう事は出来る。小さな舌が懸命に応え、時々吸い付いてくる。
 ばけもののものとはどんなものか、意識するととても彼女が耐えられそうにない大きさが現われたが、彼女はそれでもいいと言う。そして実際に突き入れてみると、不思議な事にその全てを受け入れられた。切なく締め付けて求めるが侭に責め立てると溢れ出てきた。後ろにも触手を入れ込み、充血した箇所を弄り回す。彼女は何も抵抗せず、求める侭、求められる侭に感覚を味わっていた。フレイアルトとて同じだ。彼女の甘い全てに、甘えていた。何度もその限りを彼女に注ぎ、それでも足りないと心身が訴えてくる。
 最早主導権は彼女にある。搾り尽くされるのみだ。



 気が付けば朝だった。疲れて眠っていたらしい。あまり記憶がはっきりとしない。体は変化した侭だ。
 傍らには、安らかにセメンツァが眠っている。何の傷も無く、フレイアルトの指を握っている。
 起こさないようにと気を付けて人型に戻ったのだが、一瞬消えた事に気付いてセメンツァが目を開ける。
「おはようございます」
 頷くセメンツァが可愛らしく、つい見惚れてしまう。
 こんな安らかな日々を過ごせるなら、人の形など安いものだった。



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