その頃


■-4

 何でも屋への依頼は少しずつ増え、七年後には確かな浸透を見せた。二年目にはイングラートも仕事へ参加するようになり、出来る事が多少増えたのも変化である。周囲には悪くした体が治ったと説明したが、そう遠い意味でもない。
「あんまりじっとしてちゃあ、体もなまる一方なんでな」
 イングラートの言葉は事実であり、腐っては前と変わりないだろうとの思いがあった。前を嫌うからこその柄にも無い努力だ。身形も平民街のものへ合わせると、外面だけのものが何かしらの力を与える感覚になり、それも悪くないと思えた。今では『襤褸看板の』と前置きすれば二人の事を指し、忙しいまでの時期もある。弊害は看板を新調出来ない程度だ。
 今回の依頼、荷運びではイングラートの力を使わずに運ぶ。あまり人前で特殊性を披露しても怪しまれるだけであり、自力でこなす事は力を身に付ける結果へ繋がりやすかった。泥臭い努力だが、それを惜しまない素直さはやがて実りをもたらすのだろう。
 重い荷車をヴィンコロが引き、その後ろをイングラートが押して進んだ。ヴィンコロは成長し腕も太くなったが、やはり堪えると汗が語る。それでも、重さにも続く往復にも弱音を吐かないヴィンコロの姿は、イングラートへ密かに努力を促した。汗水垂らす労働の中に混ざる平穏を覚えた所為なのかもしれない。
「これで、最後っ」
 ヴィンコロが荷車からの荷下ろしを完了させ、パン屋の倉庫で店員が二人に労いを述べる。
「お疲れさん。こいつが報酬ね」
 渡された小袋をイングラートが確かめると、前以て約束した通り銀貨が詰め込まれていた。袋を閉じ、二人で軽く頭を下げる。
「確かに。毎度」
「また何かあれば頼むよ」
 会話の横で、広い倉庫内を見回しながらヴィンコロが不思議そうに口を開いた。
「こっちにまで仕事があるのは助かるけど、こりゃあ随分繁盛してるな」
 倉庫内には小麦粉の詰まった重々しい袋が堆く積まれており、それだけの需要を物語る。言葉に店員は多少驚いた顔をして二人を見た。
「おっと、まだ評判が届いてないかい。うちは支店もあるくらいだよ」
「こいつは失敬。よく覚えておくよ」
 ヴィンコロの快活な笑顔に店員も悪い気はしないようだ。補足情報が続く。
「お勧めは肉と野菜を詰めたパンだから、それも覚えておくれ」
 あまり風変わりには聞こえないが、味付けが肝らしい。
「そりゃあいいね。なあ、あにさん」
 ヴィンコロがイングラートへ顔を向けずに、外連味のある声音で呼ぶ。イングラートは銀貨の入った袋を揺らした。
「はっは、昼飯には丁度いいってもんで」
 今度こそヴィンコロはイングラートを見ると歯を見せて笑う。笑顔の印象は七年前と変わりなかった。
 倉庫を後にし、そう遠くない位置のパン屋へ寄る。勧められた品物は予想より多少値が張ったが、二つ購入して店を出た。帰り道を歩きながら二人はパンへとかぶり付き、値の訳を知る。
「うっま」
 ヴィンコロがくぐもった言葉を零しながら噛み千切った断面を見る。肉と野菜には馴染みがあるが、香辛料の効いた味には新鮮味があった。香辛料は近代になって価格が落ちて平民も手が出せるようになったが、まだ多少贅沢品の域は出ない。大量生産する事で商品単価を落とし、このパンの立ち位置を日々の小さな褒美までに抑えたのだろう。
「こりゃあ確かに美味いな」
 イングラートもパンを頬張りながら呟く。偶にする贅沢として適しており無駄にならないと考えると、これから贔屓にしようかとの気持ちが湧き上がった。
 イングラートが最後の一欠片を口に放り込んだ時、ヴィンコロの感慨深い呟きが聞こえる。
「あそこも変わったな」
「あそこ?」
 イングラートが尋ねるとヴィンコロも残ったパンを口に入れ、咀嚼しながら答えた。
「あにさんは知らないだろうけど、あの倉庫、俺がメレネーからの……初めての依頼で行った場所なんだよ」
「あの嬢ちゃんの依頼か」
「そう」
 七年で倉庫が変わるように、メレネーも変化しているのだろうか。偽金造りの一件で無事とはいくまい。
「嬢ちゃんも何処かしらで生きているだろうよ」
 イングラートの言葉で自身が険しい表情をしていると気付いたヴィンコロは、今更気になっている己に軽い裏切りを覚え、より眉根を寄せた。依頼者一人一人へ肩入れをしていては心身が保たず、イングラートは宥めてくれたのだろう。ヴィンコロは一つ頷くと表情を緩めて大きく伸びをした。
 午後からはとある結婚式場の掃除依頼が入っていた。今朝出発する時に入った依頼である。会場が汚れてしまい次の組が入れない事態になったという事情の他、どのような汚れでも掃除するようにとの条件を告げられ、清掃にしては高額な報酬を提示された。依頼に来た式場関係者の蒼白な顔色からも只事ではないと判断したが、最終的には依頼を受けるに至る。疑問を胸に水桶と掃除用具を持って式場へ入ると、答えはすぐさま目と鼻に伝わった。
「痴情のもつれかねえ」
「派手にやったな」
 二人で溜め息混じりに呟く。床の血飛沫と小さな血溜まりが半ば程事件を物語っていた。固まりかけの血からして今朝の式での事件だったようで、恐怖が式場を管理する者の心を折ってしまったのだろう。閉めきっていた式場内に漂う血腥さは換気も必要とした。
 血の散った参列者用の長椅子や結婚誓約書の台は交換するとの事だったので軽く拭き上げるに留め、雑巾を取り付けたモップで硬い石の床を拭く。床の血を直接流せないので繰り返し桶へ血濡れの雑巾を絞り、溜まったどす黒い液体を捨てに式場を出入りした。
 やがて床が元の灰色を取り戻しかけた頃だ。二人で仕上げに拭き上げていると、不意に足音が近付く。二人が顔を上げた先には虚ろな顔で歩く女の姿があり、手にはナイフを持っている。服や頬には返り血と思しき赤が散っていた。式場で事件を起こした張本人であり、今まで逃走を続けていたのだろう。
「貴方達、何て事を」
 女の顔が瞬時に怒りで燃え盛る前にはヴィンコロがイングラートの前で構えていた。向かってくる女が突き出したナイフをヴィンコロは手刀で叩き落とし、手首を掴んで後ろ手に押さえ込む。女が叫ぶ中でイングラートが落ちていたナイフを拾い上げた。
「離して、死なせて、あの人の上で、死なせてええっ」
 切られたほうが女の想う人物だったらしい。暫く喚き散らした後は疲れたように啜り泣く。戦意を喪失したと見てヴィンコロは女の手を離した。
 イングラートがナイフの切っ先を見詰めながら口を開く。
「あんたは幸せもんだ」
「どうして……そんな……」
「あんたは理由あって死を選んだな。俺達にゃ考えられん。俺達の死なんざ、理由なんぞ付いてこんよ。理不尽にただ死ぬだけさ」
 だからこそ生きる選択を求め、選んできたのはイングラートもヴィンコロも同じだった。死の選択は恐ろしいからこそ、嫌悪するものとして其処にあるもの、あり続けるものだ。
「あんたはまだ選ぶ手を持ってる。それで堂々と生きる事を選ぶんだな。気に入らねえとどいつもこいつも殺しちまってたら、あんたの命ぽっちじゃあ恨みを背負えなくなっちまう。あんた自身の恨み悲しみすら背負えんだろうよ」
 女が知る由も無いが、言葉はイングラートの悔恨であり、今なら実行出来る現在での学びだった。しかしその重みだけは女に届いたらしい。
「私は、幸せに、なれるの?」
 出血の跡からして、女の刺した人物は恐らく死んでいるだろう。この国でも殺人は罪に問われるが、罪は幸福が訪れない根拠にはならなかった。訪れたとて大きなものではないだろうが、それは罪と怨恨を背負いながら生きる上での小さなよすがであり、生きる活力としては充分に力を発揮する。そうでなければ、どのような理由にせよ人は生きられたものではない。
「幸せを信じてやる価値はあると思うね。それがいつかもどんなもんかもは俺にも解らんが、それだったら苦しみが先で幸せが後のほうがいいと思わんかね」
 イングラートの言葉に女は大きく息を吐き、顔を覆ってまた嗚咽した。遣り取りを見守っていたヴィンコロは、ふと背後からの物音に気付いて振り向く。入り口ではヴィンコロと同じような年頃の女が開け放たれた扉の陰から覗き込んでいた。女は見られた事に気付いたのか頓狂な声を上げ、泣いていた女でさえ振り向く。
「あーっ」
 大声と共にヴィンコロを指差し、明らかに驚いている様子だった。しかし其処から言葉が淀む。
「あの、えーっと、貴方、そう、えっとね」
 ヴィンコロは己を指す指先を訝しげに見ていたが、ふと薄紅色の髪に覚えがあると気付いた。そうして面影を見付けると、驚きに目を見開いて呼びかける。
「もしかして、メレネー?」
「そう! 覚えててくれたんだ」
 身形は平民のそれであるが、七年経てば人も変わる。変化に必要な命を繋いでいたようだ。
「どうしてこんなとこに」
「だって、其処の女の人が刃物持って歩いてて」
 急に引き合いへ出された女が身を震わせる。
「思い詰めた顔してたから、心配になっちゃって……」
 凶行ではなく心境への言葉へ、女はまた大粒の涙を零した。イングラートが女の背を宥めるようにさする。
「あんたも捨てたもんじゃあないらしいな」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 女はもう自害する事も無く、苦しい一生を懸命に生きていくだろう。



 自首へと向かう女に付き添うメレネーを見送り、二人は仕事を続ける。拭き続けて石が事件の痕跡を無くし、式場内の血のにおいも抜けた頃にはメレネーが戻ってきた。
「ありがとな」
 ヴィンコロが声をかけると、メレネーは寂しそうに笑った。
「うん、無事に引き渡してきたよ。あの人、花嫁さんが好きだったんだって」
「そうかい……」
 この国で同性愛は罪にこそ問われないが、無価値だとされてはいる。女の愛は恐らく相手へ届きもせず、だからこそ喪失感が受け入れ難いものになったのだとは、二人も推し量れるところだった。
「で、それはそうとしてよ」
 急にメレネーから無遠慮に詰め寄られ、ヴィンコロは迫力に竦む。隣のイングラートが漏らした笑い声にすら反応出来ないでいると、メレネーが不機嫌な表情で言い放った。
「貴方、いい加減名前くらい教えてよ」
「えっ、言ってなかったか?」
「言ってない! 貴方を探そうにも名前が解らないから、人に訊きようが無かったのよ」
 探していた理由は気になるがひとまず置いておき、ヴィンコロは素直に頭を下げる。
「そりゃあ悪かった、この通り。俺はヴィンコロっていうんだ」
 頭を上げ、次には横に立っているイングラートを親指で指し示す。
「こっちは俺が世話になってる、イングラートのあにさんだよ」
 どちらが世話になっているのか、最初の契約からすると曖昧になっている今はどちらかと言えば良い形なのだろう。イングラートは軽く頭を下げた。
「メレネーといったな、こりゃあどうも。あの時あんたの声だけ聞いてたが、あれからしっかり力が付いたみたいだな」
 メレネーは聞いた名前の意味に首を傾げていたが、イングラートの言葉へ満足そうに頷く。
「まあね、あれから色々あったし、強くならないとやっていられなかったからね」
「あんたの事をこいつがちょいと心配してたもんで」
 イングラートからの漏洩にヴィンコロが渋い表情を浮かべ、それにメレネーが意地悪くにやついた。
「そうなんだあ」
「あんな事件があったら気になるだろ」
 ヴィンコロが拗ねて言うが、内容は反して素直なものだ。偽金造りの一件でメレネーも無事では済まなかっただろう。今のメレネーがそれを示し、それだけで済んだと物語るのも事実だった。
「ああ、あれね。けど、詳しくはまた後でね。これ以上お仕事の邪魔したら悪いし」
 外へ出ようときびすを返すメレネーへ、イングラートが告げる。
「あんたにはさっきの礼をせにゃならんしな」
「そう? そしたらちょっと連れていきたいところがあるんだけど、この後の予定は?」
 問われて二人は顔を見合わせた。嫌な予感はしないので正直に答える事にする。
「いや、特に何も」
「じゃあ決まり! 外で待ってるね」
 言うなりメレネーは出入り口へ駆けていった。嬉しそうなその背へ聞こえないように、イングラートはヴィンコロへ小声で話しかける。
「元気なもんだ」
「元気すぎるよ」
 呆れながらもヴィンコロは己の片隅に安心を見付けていた。
 二十分もすれば依頼主との遣り取りも完了し、待っていたメレネーと合流する。案内される中でメレネーからこれまでのいきさつを聞いた。
「偽造事件の後、私はあの糞兄……テッゾの奴と一緒に親戚のところに行ったの。けど、親戚は私を扱き使うだけだった」
 テッゾへの乱暴な呼称はメレネーの成長でもあるのだろうが、現実としては良いものではない。故に当時のメレネーに味方はいなかったようだ。
「それが嫌で嫌で、家出しちゃった。誰も追ってこなかったから、体良く代わりでも見付けたんでしょうね」
 境遇が微かに重なり、ヴィンコロは頷く。
「そういう奴らは果てしなく欲深いからな」
 言葉にメレネーは軽く笑い、右手へ曲がりながら続けた。
「興味無いものに飽きっぽいのは助かったけどね。それで今、住み込みで働かせてもらってるのが、此処」
 メレネーが足を止めた場所を見て二人が気付いたような声を上げる。
「どうしたの?」
「さっき来たもんでなあ」
 イングラートが先程見たばかりのパン屋の看板を見上げながら答え、ヴィンコロも頷くさまにメレネーは目を輝かせた。
「もしかして、うちの売りも食べてくれた?」
「肉野菜が詰まっておったパンかね? 香辛料が効いてて美味かったよ」
 イングラートの反応にメレネーが自慢げに腰へ手を当てた。
「そうでしょう。あれ、私の考案したやつ」
「ははあ。何か取っかかりはあったんかね」
 感心するイングラートが尋ねると、メレネーは急に身を屈めて手招きし、二人へ耳打ちした。
「あれは偽造事件をヒントにしたの。見た目は普通、蓋を開けたらスパイシーってね」
「やるもんだなあ」
 メレネーへ向き直りますます感心するイングラートの横で、ヴィンコロが呆れて呟く。
「強かにも程があるんじゃあないのか」
「このくらいじゃないとやっていけないのよ。さあて、お礼に三人分買ってもらうからね」
 何かをとは言わなかったところ、メレネーが買わせたいパンは決まっているのだろう。
「はっは、全く強かなこった」
 笑うイングラートの横でヴィンコロもメレネーの意図を察し、諦めの溜め息をついた。



 パン屋の外壁に寄りかかり、三人でパンを頬張る。二人は昼食に食べたパンだが、やはり美味く思えた。三口程食べたところでヴィンコロは式場でのメレネーの言葉を思い出し、何と無しに尋ねてみる。
「メレネー、そういえばなんで俺を探してたんだ?」
「そうだった。支払いと報告と、忠告があるんだけどどれから聞きたい?」
 メレネーは指を三本立ててヴィンコロへ見せながら答えた。
「それじゃあまず、支払いって?」
 メレネーは手を引き、その侭片手で持ち物を漁る。
「支払いは、あの時のお礼をちゃんとしたくて」
 言いながら財布を出しかけたが、其処にヴィンコロが手をかざして制した。
「いや、いいよ」
「どうして」
 メレネーの表情は至って深刻なものだ。故意ではないとはいえ、メレネーは偽金を手渡してしまった事を長い間後悔していたのだろう。
「あの時、お前は金の重さを解ってから俺に支払ったんだ。それでいいんだよ」
 ヴィンコロが快活に笑う。真に解った上での取り引きに後悔は無く、たった今完了したとさえ思うからこそのものだ。
「有り難う、ヴィンコロ」
 ヴィンコロからの言葉を噛み締めるように、メレネーも笑った。
「それで、報告と忠告なんだけど、どっちもあの時に関係してる事なの」
「順番に報告から聞くよ」
 ヴィンコロの注文に頷いたメレネーは雑踏に目を遣る。
「報告したかったのは、ケウロの事。打ちどころが悪かったのかな、治療したけどあの後すぐに死んじゃったの」
 瞳に過去を揺らし、メレネーは当時を思い出していた。最期まで懸命に尻尾を振る姿が今も脳裏に残っている。
「そうかい……。あいつ、無理してたんだな」
 勇ましくテッゾへ向かっていったケウロの姿を思い出しながら、ヴィンコロは悲しげに目を伏せた。言葉こそ通じない存在だが、ケウロの生き様は忠誠で彩られていただろうと判断出来る。実行は時に言葉以上を語るものだ。
「あの頃、本当に大変だったんだな」
 ケウロの死に続いて偽金造りの事件が重なり、メレネーの心身の支えは失われてしまったのだろう。其処から這い上がるには相当な力が必要だったとも容易に推察出来る。
「うん。けどね、ケウロの為なら頑張れた。ケウロが守ろうとした私が、私の所為で駄目になるのは絶対に違うと思ったから」
 思いの強さはメレネーの持つ強さの証でもあり、七年前にケウロを必死に探した時にも既に備わっていたようだ。そうでなければ、兄のテッゾと対峙した際に怒りをぶつける事も無かっただろう。
 確かに前を向くメレネーへ、ヴィンコロは憧憬すら覚えて微笑んだ。
「ケウロもきっと誇らしいだろうさ」
「そうなのかな。そうだったら、嬉しいな」
 イングラートは二人の遣り取りを見遣りながら、まだ若い二人の持つ可能性を思う。行動を起こすに遅すぎる事はないとの言葉を聞いたことがあるが、早すぎる事もまた無い。様々な事柄へ挑み、時に傷付きながら学ぶだろう。酸いも甘いも待ち受けるであろうこれからを、それぞれが乗り越えられると信じるに値した。
 メレネーは思いから抜けると、仕切り直しにしては深刻な表情になる。
「それで、忠告のほうなんだけど」
 思わずヴィンコロとイングラートも固い表情になり、メレネーの言葉を待った。
「家出する前までしか解らないけど、テッゾの奴、ずっとヴィンコロを逆恨みして何か企んでるみたいだった。嫉妬心とか執着だけは物凄く強い奴だから、これからも気を付けておいて」
 親戚へ預けられて尚、テッゾの金と権力は二人よりも強い位置にあるだろう。あらゆる手段で復讐に来る可能性を告げられ、ヴィンコロは苦々しい顔をした。
「あの野郎、何処までも迷惑なこった」
「ごめん、あんな兄で」
 頭を下げかけたメレネーにイングラートが軽くかぶりを振る。
「メレネーにも迷惑かけてるようじゃあ、いよいよ世話が無いってもんだ」
「そうね……。有り難う、イングラートさん」
 メレネーの顔に明るさが戻り、イングラートは頷いた。



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