有漏路の幽鬼


■-3

 馬鹿な。そんな事があっていいものか。調査員は何をしていたんだ。
 保険金が入ってきた。骨壷はとうの昔に捨てられていた。
 親が喜んでいる。
 紙に書かれた字。
 『森下 有人』
 様子をじっと見ていたが、親はその名前には一瞥もくれなかった。



 なんで。なんで。なんで。
 疑問の中、視界の端に引っかかりを感じる。
 なんで鏡に自分は映っていないんだろう。



 驚いた。あの自分が其処に立っている。紛れも無い、今動いている自分。首が博物館の化石のように伸びている。
 声はどうだ、聞こえていたか、聞こえるのだろうか。
 声を出してみる。親が騒ぐのをやめた。
 台所に歩く。足首がべきりと折れた左足で。包丁。掴めるのか。掴めた。
 親がやってきた。叫んだ。腰を抜かした。



「おとうさーん、おかあさーん」
「あ、ると、どうして」
「ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう……」
「にげよう、はやく、にげるんだっ」
「このくされやろうがあああああああああああっ」
「あぎいうぎゃっうおおおおあああっあぶぶぶごごお」
「ひいいいいいっだれかっだれかたすけてっ」
「あなたたちなんかいらないっこのきせいちゅうめっくそっ」
「たすけて、はなして、どうしてこんなこと、たすけてっ」
「しんでしまえっあははははっはははははあははははははは」
「たすげっげっげええっえべっぼごぼぼ」



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