有漏路の幽鬼
■-10
小さなこの国が焦土になるのは、容易い事だった。
都市は殆ど壊滅し、物資はおろか、情報さえ入ってこなくなった。金の意味ももう無い。飢えと傷で苦しむ人間で溢れかえっていた。
死体は自分で見慣れているが、破壊の事実がもたらす凄まじい力に、恐怖を覚えた。
本当に戦争なのだ。漠然としか解らなかったものが、今目の前に広がっている。
こんな筈ではなかったのに。未来はこんな筈ではなかったのに。こんなものに巻き込まれる筈ではなかったのに。あり得ないと否定したくなる。
空から音がする。見上げると、何処の国のものか解らない飛行機が幾つも飛んでいた。それがぽろぽろと何かを落とす。
まさかと思った瞬間に起きる爆発。彼もまた巻き込まれ、焼け焦げて吹き飛ばされた。
熱い、痛い、感覚が無い、なのに痛い、熱い、苦しい。
理不尽過ぎる仕打ちに、痛みに彼は激昂した。
「何するんですかあああああっ」
姿は一気に、化け物の姿へ変わる。その体は焼け焦げて、ぬらぬらと体液を流している。予備動作無しで飛び上がると、飛行機、もとい戦闘機目がけて一気に加速した。目も強化されているらしく、戦闘機を正確に捉える。
追い付いた戦闘機を、虫でも叩くように平手打ちした。潰れたらしい、内側を赤に染めて墜落していった。
突然現れた化け物の力に驚いたのか、戦闘機は逃げ惑う。許さない、逃がすものか。腕を幾多の触手に変えて、網でするように残りを捕まえた。
この時点で戦闘機は煙を出していたが、彼の怒りは収まらない。口が裂ける程に笑うのが解った。
網を腕に戻しながら、戦闘機を両手で挟んだ。少し熱かったが、ぐしゃぐしゃと何度も揉み潰す。暫く続けて、ごみを捨てるように投げた。
静かになった上空で、地上を見る。
少し前まであんなに建っていたビルはどれも根元から折れ、道はどれが道だったのか解らない。
地上に降り、元の姿で歩いてみる。先程の爆撃で所持品は何もかも燃え尽きてしまった。
辛うじて残った壁に、学校の授業でしか見なかったものがあった。其処に人がいたという証拠の、赤い影。焼き付いた人。それが漸く現実を全て伝えてきた。
どうしてこんな事に。どうして楽しい日々が続かなかったんだろう。
誰の事も思わずに悲しんだ。
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