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◇◆  Impossible! 2 ◇◆
 ネズミー帰りのまま、コンビニ経由で、ともに訪れた秘密基地。
 歩き過ぎて足が痛い。久しぶりに靴擦れを起こし、小指には豆までできた。
 強引に潰すべきか、将又、勝手に潰れるのを待つかと悩んだけれど、そんな心配は要りません。
 なぜなら、勝手に弾けてくれました。さらに、お風呂へ入ったら、相当沁みました。
 高が豆と侮ってはいけません。明後日に控えた、朝の通勤ラッシュにて、こちらをちょっとでも踏まれようものなら、胸倉掴む勢いで、踏んだ相手を罵倒するでしょう。
 仮に単独事故を起こしたとしても、壁や物を相手に、啀み罵り捲ること請け合いです。
 なので絆創膏は、全てのバッグに常備です。しかも二枚。

 バスタオル姿のままバッグから絆創膏を取り出し、小指に当てようとすれば、亮がそれを奪う。
「貸してごらん。俺が貼ってあげるから」
 そこで、無防備に足を差し出せば、亮が突然、その親指を口に含んだ。
「あ、亮ちゃんありが…ふくんんっ」
 こんなにも、足先が敏感だとは知らなかった。とろっとした刺激が、余りにも強烈に身体へ響く。
 気持ちが良い悪いではなく、其処から逃れたい想いの方が強い。
 それでも、力強く動いてしまうと、亮の顔面を蹴り兼ねない。だから小さな抵抗を試みる。

「ふわっ…んくぅぅ、りょ、亮ちゃ、やめ」
 すると亮は、ちゅぽと艶かしい音を立て、口内から足親指を引き抜いた。
「だって、美也の足が、舐めてって言ってたから」
「い、言ってないよっ、私はバンソコを…んっ」
 最後まで言わせることなく、亮の唇が、甲を這い、踝を這い、脛を滑って膝を舐める。
 唇へのキスよりも濃厚な、その行為に興奮し、喉が詰まった。
「くっ……っ」
 内腿を這う唇が、段々と中心に向かって行く。中心を吸われたときの快感を想い馳せ、何もされていないのに花唇がひくと揺れる。
 けれどそれは、何やら遣る瀬無い、小さな溜息を齎すだけに終わり、ただ茂みを掠めたまま、亮の唇は対の太腿へ向かう。

 私の溜息を聞き逃さなかった亮が、目ではなく、中心を見つめながら、囁き掛ける。
「舐めてって言わなきゃ、舐めてあげない」
 そんな囁き声に答えるよう、又もや花唇がぴくんと揺れた。
 舐めて欲しい。ビロードのような舌で、溶かすように柔らかく、包むように掬い上げて欲しい。
 それでも、それを口にするのは勇気がいる。だから、中心をひくつかせながらも、唇を噛む。
 私の膝を折り曲げて、亮が右足の親指を吸う。 けれど空いた手は、蜜を垂らした秘裂をなぞり、意地悪気な流し目で私を見下ろしながら、頬の脇に指を押し遣り、囁いた。
「美也、ずっとこのままがいいの?」

 いいわけがない。それでも小さく残る理性が、その言葉を吐き出すことに抵抗する。
 いつもこうだ。こうやって逃げる私を、亮は絶対に逃さない。
 俺から逃げないでくれと、何度も繰り返しながら、全ての想いを吐き出させる。
「美也……」
 熱い息を言葉にしたような、小さな小さな囁き声。その音は、耳だけではなく肌からも沁み込み、身体を熱くさせ、胸の隆起を尖らせる。
 さらに、亮の舌が指の腹を舐め始め、その刺激に耐えられず、結局、震えながら白旗を揚げた。
「亮ちゃ…なめ…て」

「了解」
 満面の笑みを湛えて、亮が私の脚を押し開く。両指で秘裂を割り、現れた柔粒を舌で転がす。
「くぅぅんあっ、んぁ…あ、や……」
 堪らない。待ち焦がれていたこの快楽に、つま先がきゅんと丸まり、腿が小刻みに痙攣する。
 鼻に掛かった声が漏れ、行き場を失くした両手は亮の髪を弄り、無闇に動く。
「ん、ん、ん…はぅっ」
 変則的なリズムで、舌と唇が蕾を弄ぶ。ちゅくと、いつ吸い付かれるかが解らず、緊張が解けない。
 それでも、攻撃的に武者振り付かれれば、爆ぜてもいないのに、身体がガクガクと震え、亮の頭を押さえつけて、急斜な坂を一気に駆け上がって行く。
「ああぁっ、んんんぁっ」

 ところがそこで、私の携帯が鳴り出した。
 朦朧と絶頂へ向けて直走っていても、着信音の主が解れば、瞬時に酔いが覚める。
 あの着信音は、克っちゃんだ。週末のこんな時間に、克っちゃんから電話があるなんて、きっと何かが遭ったに違いない。
「りょ亮ちゃ…電話っ、待っ、で、でん……」
「無視してよ」
「だ、だめっ、か、克っちゃんだからっ!」
 亮を押し退け、バスタオルを巻き直しながら立ち上がり、台に置かれた携帯へ手を伸ばす。
「もしもし、克っちゃん? どうしたの?」
 足に力が入らない。だから、壁に手をつき踏ん張って、平静を装い声を出す。

 けれど、克っちゃんの返答を聴く前に、強烈な刺激が身体を貫いた。
「ひゃぅっ!」
 亮の指がバスタオルを捲り、難なく私の中に滑り込んで、回転しながら襞を弄る。
「美也? お前、今何処に…な、なんだ?」
 克っちゃんの問いに答える間もなく、身体を反転させられ、壁に背中を押し付けられた。
「な、なんで…も…っ、何でもないよ!」
 左手で携帯を握り締め、必死で言葉を吐き出すけれど、鋭い眼で私を見据える亮は、私の片足を持ち上げ、押し潰すように身体で固定しながら、二本の指を、私の中へ沈め返す。

 二本の指が、激しく抜き差しされる。その度に、くちゅくちゅと、卑猥な音が静かな部屋に響く。
「また、何かやらかしてるな? どうしてお前はいつもそうやって」
「か、克っちゃ…ごめっ、い、今…無理っ、無理!」
 淫らな私の蜜の音が、電話越しに、克っちゃんへ聴こえてしまうのではないかと、羞恥に塗れれば塗れるほど、想いとは逆に、身体が熱くなっていく。
 それよりも何よりも、声を押し殺すことが精一杯で、克っちゃんが何を言っているのか解らない。
 さらに、苛立ちを隠すことなく、私を見据え続ける亮の顔が堪らない。

「き、切るっ…ね? んっ…切るから、切るからっ」
「おい美也? 美也、何が……」
 もう駄目、もう限界、もうイっちゃう。目の前がチカチカと光り出し、身体に緊張が走る。
 強引に克っちゃんとの通話を切って、閉じた携帯を、きつく握り締めながら目を閉じた。
 ところが、私の手から携帯を毟り取る亮が、冷淡なほど低く鋭い声で告げる。
「美也、イクな。イったら許さない」
 だからって、速度も勢いも弱めてくれない。言葉とは逆に、イかせようとする動きで嬲る。
「む、り…だめっ、ああっ」

 亮の肩を、指跡が残るほど強く握り、視線を避けて俯きながら、絶頂回避を試みた。
 それでもそんなものは、その場凌ぎに過ぎない。頂上間近な昂ぶりを、押えることなど到底無理だ。
 けれど亮は、それを許さない。絶頂禁止令を何度も繰り返し、私を脅す。
「イクな」
 だから声を押し殺し、静かに爆ぜる。ばれないように懸命に、歯を食いしばりながら爆ぜる。
「っっっっんっ」
 絶頂後の痙攣も、感嘆の溜息も、殺しに殺して耐えたのに、亮はひたと動きを止めて、視線を避ける私の顔を覗きこみながら、眉根を寄せて文句を放つ。
「何、イってんの? イクなって言ったじゃん」
「イ、イってなんかないよ」
「嘘吐けよ。バレないとでも思ってる?」

 思ってた。何故バレたんだ。それでも、向きになって達していないと否定すれば、亮の顔が益々邪悪に歪み、熱く固いものを秘裂に宛がいながら、鋭く吐き捨てた。
「イったら、中で出すから」
「え、ま、待って亮ちゃ…やっ、んんぐぅっ」
 いつもの感触と違う。何も纏わない亮が、直に私の中へ沈み込んだ。
 私の膝裏を腕に掛け、最奥目指して捻じ込むように、襞を掻き分ける。
「あっ、だめっ、亮ちゃ、だめ、んっ」
 女の性で、快楽に溺れながらも排卵日を考える。生理が終わったのは先々週で、なんちゃら式では、生理終了日の何日後が妊娠しやすいと習ったっけ。
 否、そうではなくて、妊娠しなければいいってもんじゃなくて……とりあえず抵抗しろ。

「亮ちゃ…だめっ!」
 両手で亮の胸を押し、繋がりを解こうと躍起に動くけれど、亮はその全てを阻んで言い放つ。
「中で出されたくなければ、イクな」
「ああっ…んっ、んっ」
 痛いほど強く壁に押し付けられ、片足立ちの不安定な体勢のまま、苛立ちをぶつけるように、深く重く、突き上げられる。
 何故こんな、亮らしくない意地悪をするのだろう。
 強引なことは、沢山されてきたけれど、私が本当に困るようなことなど、亮はしたことがない。
 この状況は、初めて抱かれたときに似ている。あのときも、確か私が克っちゃんと……

 けれどそこで、今度は亮の携帯が鳴り出した。その着信音が誰を表すのかは知らないが、その音を聞分けた亮の動きが、曖昧なものに変化する。
 そして、耐え切れなくなった亮が、私の中から自身を抜き去り、携帯へ手を伸ばす。
 拷問から解放され、安堵の溜息を吐くものの、中途半端に高められた感情が喚く。
「亮ちゃん、無視し」
 けれど、一足早く応答した亮は、私の口を片手で塞ぎ、相手との会話をし始める。
「もしもし? どうしたの、何かあった?」

 物凄く厄介な魔王が目覚めたらしい。私との行為を中断してまで、電話に出なければならない相手なのだと思ったら、身体よりも眉毛が疼く。
 テーマパークを訪れたときだって、そうだ。
 携帯片手にコソコソと、怪しい動きをしていた亮を思い出し、澱んだ感情が込み上げる。
「いや、此処には居ない……みっ!」
 気づけば、亮の背中を壁に押し付け、両膝を立てながら、反り立つ塊を咥え込んでいた。
「…な、なんでも…ちょっと、いま、」
 亮の空いた片手が、私を押し退けようと無闇に動く。
 それでも両手で塊を握り締め、ぎゅっと吸い付き動きを封じる。
「っ…ご、ごめん…で、電波が悪いから、後で…っ、掛け直すっ」

 相手との通話を強引に切断した亮は、携帯を放り投げ、自由になった身体で私を引き剥がす。
 けれど私の中の魔王は、未だ御立腹中だ。だから、私を抱き上げる亮に、文句を垂れる。
「亮ちゃん、もう、私に触らないでっ」
 ベッドに転がされても尚、毛布を身体に巻きつけ、触れようとする亮の手を払い除けた。
「やだ。触らないでっ」
 大人気無いと解っていても、兄妹だし、六歳も年上だし、不安は早々拭えない。
 魔王が齎す感情を、認めたくない一心で、在らぬ方向へ思考が走る。
 大体、私を好きだと言っている方が、おかしいんだ。こんな関係など、何時終わっても不思議じゃない。
 それなのに、のめり込んでいる自分が恥ずかしい。やっぱり私は、お姉ちゃんに戻るべきだ。

 ひたと一切の動きを止めて、我に返る。一体私は此処で、何をやっているのだろう。
 そんな私の異変に気づき、亮の動きも止まる。そこで、これ幸いと亮の腕を摺り抜け、この部屋から立ち去る言い訳を、しどろもどろに告げた。
「か、帰るね? えっと、用事を思い出してですね? それはもう、大切な用で」
 それなのに亮は、こういうときに限って、例のあの顔で要求する。
「美也…俺から逃げないで……」
 逃げてない。逃げてなんかいない。逃げるんじゃなくて、戻るだけだ。
 だから無理に視線を逸らし、その顔からも脱出しようと服を掴む。
 けれど、亮の動きの方が早かった。弱いと自認する後ろからの抱擁に、掴んだ服が床へ落ちる。

 改めて思う。本当に私は、後ろからに弱い。
 あの要求顔よりも強力な戦術が、この世に存在したのかと思うほどに。
 さらに、これを遣られると、意に反した、訳のわからない言葉を吐き出してしまうらしい。
「だ、だって、亮ちゃ、私…だって」
 首に回された亮の腕を、引き剥がそうとすれば、反対に身体を翻され、片腕で抱き締められたまま、目を見ろとばかりに、俯く顎を持ち上げられた。
「だっては無し。逃がさないとも、俺は言ったよ?」
 視線が外せない。囚われたように、身動きすらできない。そして、亮の顔がゆっくりと近づく。

 亮のキスは、いつも私の脳みそを溶かす。このキスだけで、膝が落ち、蜜が溢れ出す。
 焦点が合わず、瞳が潤んでいくのが解る。亮の想いが流れ込み、その想いに触れて蕩けるんだ。
「美也、触れさせて……」
 唇を掠めながら、加護を祈るように、亮が囁く。
 その囁きに反応し、胸を覆っていた腕を解いて、そのまま亮の髪に指を差し入れた。
「亮ちゃ…ぁふっ」
 肌を重ねながら、ゆっくりとベッドの上に押し倒され、甘いキスはその間も続く。
 恍惚と降り注がれるキスに溺れ、甘ったるい溜息が零れ始めたところで、亮が問う。
「美也、ヤキモチ妬いてたの?」

 図星を指されても、屈した心は、異議を唱えることなど、もうできない。
 好きなの。堪らなく亮が好きなの。だから怖いの。
 いつか亮に好きな人ができたら、私の心は、どうなっちゃうんだろうって。
 今だってこんなに怖いのに、もっと好きになったら、どうなっちゃうんだろうって。
 だから、自分から言い出せば間に合う。今ならまだ、自分から戻ろうとすれば……
 けれどそこでまた、亮の手が、強引に私の顎を持ち上げ、幾度となく聴く、同じ台詞を強く語る。
「美也、逃げないで。逃がさない」
 逃げてないよ。逃げたりしてない。だから、閉じていた眼をくっと開けて、亮を見た。

 見なければ良かった。ホッとしたように微笑む亮の顔が、愛し過ぎて苦しい。
 逃げてなんかいないけど、逃げられない。戻ろうとしても、もう間に合わない。
「りょ、亮ちゃんが全部、全部、だって……」
 論理も意味も成さない、支離滅裂な文句を亮にぶつけ、最後は言葉に詰まって目を逸らす。
 ところが亮も、訳の解らない言葉を、途切れ途切れに私へ呟く。
「美也を好き過ぎて、狂いそう……ヤキモチ妬き過ぎる、自分が厭だ……」

 それは私の台詞であり、亮が吐く台詞ではない。
 大体、私はやきもちなんて妬かせてないし、亮だって妬いたりしてない……ん?
 ちょっと待て。もしかして、克っちゃんからの電話で、あんな意地悪をしたのも、七和との遣り取りに、デコピンをしたのも、全部、それが原因だったなどと?
 そう言えば、自分はやきもち妬きなのだと、亮は自負していたような。誇ってはいなかったけど。
 否、でも勘違いをしていたら恥ずかしい。此処はちゃんと、ストレートに聞くべきだ。直球で。
「亮ちゃん、もしかして…やきもち妬い」
「黙れ。それ以上言ったら、ぶっ飛ばす」

 我ながら、現金な女だと思わずには居られない。
 真っ赤になって不貞腐れる亮の顔を見て、頬の緩みが治まらない。
「むぅっ。笑うな。美也、絶対覚えてろっ」
 子どもみたいに、怒りを言葉にする亮が、可愛くて堪らない。
 そんな、ないない尽くしで溢れた心のまま、ちょっと偉そうに、亮を掻き抱く。
 自分が妬いていたことなど、遥か彼方に吹き飛んで、大人の余裕を吹かせて囁いた。
「亮ちゃん、もう、可愛いっ」
 けれどこんな余裕も今だけで、当然この後、互いの形勢が逆転するのは言うまでも無い。

「美也……」
 膝で裾を割られ、甘い囁きとともに亮がくる。
 私の腰を引き寄せ、めり込むように亮が沈み、最奥を告げる亮の肌が、花唇に触れた。
「あぁっ、亮ちゃ……」
 ところがそこで、亮が私の腕を取り、座ることも寝ることも許されない半端な位置まで、私を起こす。
 戸惑う私を余所に、Vの字に繋がる互いの身体で、亮が少しだけ腰を動かした。
「くはっ」
 目を大きく見開いたまま、息が止まる。だめ。これは刺激が強すぎる。やめて。動いたらだめ。
 けれど、私の心とは裏腹に、瞳を輝かせて亮が囁く。
「この角度だと、バッチリ当たるでしょ」

 既に亮の先端が、痛いほど要処を押し抉っているのに、これで動かれたら気が触れる。
 だから、震える声で、必死の懇願を吐き出すけれど、これが亮の復讐だったらしい。
「う、動かない…で、おね、がい……」
「やだよ、動く。覚えてろって言ったじゃん」
 さらっと言い放ち、きな臭い笑みを湛えて、亮が腰を動かし始めた。
 頭を殴られたような、脳へダイレクトに響く快楽。余りもの刺激に火花が飛び、瞬きすらできない。
「だ、だめ、やめっ、い、い、い、やああぁっ」
 塊を叩きつけられているわけではない。強く貫かれているわけでもない。
 それなのに、堪らない。耐えられない。爆ぜるではなく、迸るような感覚が湧き上がる。

「や、やめっ、で、でちゃ、でちゃうっ!」
「何が? 何が、でちゃうの美也?」
 解らない。何も考えられない。尿意のようで、それとは違う何かに侵され、我慢ができない。
 汚辱に羞恥にと、色々な感情がごちゃ混ぜで、半狂乱になりながら、そこから逃れようと、もがく。
「いやあっ! やめてっ、いやだっ!」
 それでも亮は止めてくれない。腕を掴んで、位置をしっかりと固定し、素早く襞を擦り上げる。
「美也、我慢しなくていいよ。出しちゃえ」
 厭だ。だめ、できない。でも、我慢もできない。お願いやめて。本当にだめなの。
「だめなのっ! だめなのっ! いやっ、やっ!」
「感じて美也…俺だけに感じて…もっと。もっと」

「ああ、ああああ、い、い、やああぁっ」
 身体の中から、びしゃっと何かが迸り、弾けた水滴の感触が伝わる。
 言い表せない開放感で、泣き出しそうだ。
 絶頂を迎えることとは、趣が違うこの快感。どちらも爆ぜることに変わりはないが、全てが違う。
 それでも、お漏らしをしてしまったときのような、屈辱感が拭えない。
「ご、ごめっ、りょ亮ちゃ…ごめん、ごめ」
 子どもみたいに上を向き、泣いて謝る私を、亮がきつく抱き締める。
「何で? なんで謝るの? 嬉しいよ。凄く嬉しい」

 私を溶かすキスの雨が、私を熱くさせる言霊を伴い、絶え間なく降り注ぐ。
「美也…美也、美也……」
 シーツが濡れて肌に冷たい。それでも亮が動きを再開すれば、快楽がそれを綺麗に揉み消す。
「ぁぁっ、亮ちゃっ、亮ちゃっ、んんんっぁっ」
 花火のように、じりじりと点火され、空高く舞い爆ぜた。
 けれど絶頂に達して震えても、身体を弛緩させることなく、亮が次々と点火する。
「美也…狂うほど、俺を好きになって……」
 なってるよ。とっくになってる。心も身体も、亮を求めて止むことが無い。

「亮ちゃん、好きっ、ぅくぅっ…んっ、好きっ」
 背中を浮かせて、亮にしがみつき、叫ぶように想いを告げる。
 互いに激しく揺れながら、唇を貪り、喘ぎ、獣のように絡み合う。
「俺もだよ…っ、美也……」
 亮が爆ぜる。狂ったように打ち付けて、濁音混ざる息を吐く。
「ァっ」
 ドクンと一度、亮が揺れる。そのまま、ぐっと奥まで挿し込み、顔を歪めて何度も揺れる。
 この瞬間が、堪らなく好きだ。亮のイク顔が。私で爆ぜる亮の顔が……

 余韻冷めることなく微睡む私の傍から、珍しく離れた亮が携帯に手を伸ばす。
 朦朧としながらも、その行動に腹が立ち、酔ってもいないのに、呂律の回らない口調で喚いた。
「亮ちゃっ、らめっ! 美也らけれしょっ」
 そこで、くすくすと笑う亮が、携帯片手に舞い戻り、額に音を立ててキスをする。
「うん。美也だけだよ」
 それでも気は治まらず、目を閉じたまま両手を伸ばし、抱擁を求めながら文句を垂れた。
「じゃ、浮気はらめれしょっ」

 要求されるがまま、私を胸に抱き留めた亮は、顎で頭を小突いて、勘違いを正す。
「兄貴と? 冗談でしょ。こんな時間に電話を掛けてくるから、何か遭ったのかって気になっただけ」
 なんだ、さっきの電話は克っちゃんか。やきもち妬いて損しちゃったよ。
 否、そうではなく、否、そうなんだけど、あれだ。
 確か、さっき私も、そんなことを考えていたような記憶が、凄く遠くにある記憶。
「ということで、兄貴に電話するから、美也シー。ね?」
 指を唇に宛がわれた気がするけれど、半分眠っているので、適当です。
 とりあえず、瞼を閉じたまま、二度ほど肯いておきました。

「もしもし? あ、悪い。…え? あぁ、確かに一緒だったけど、数時間も前に別れ」
 克っちゃんと話す亮の声が、肌から直に伝わり、心地良い。
「いや、美也も俺と一緒に降りたから…あ、七和が知ってるかも」
 とくんとくんと聴こえる心臓の音と重なって、安らかな眠りを保障してくれる逸品だ。
「今、七和に確認を取るよ。折り返し、そっちに電話する。うん。じゃ」
 けれど、通話を切断した証のプッシュ音で、ふと、意識が一瞬戻る。
「克っちゃん…何らって?」
「石岡さんが、まだ帰ってないらしいんだ」
「ふ〜ん。……え?」

 心が、妹の緊急事態を告げている。それなのに頭は、快眠を決意しているらしい。
 とりあえず起き上がり、全く機能しない回路で、亮と七和の会話を盗み聞く。
「七和? お前、石岡さ…、は? 何やってんの?」
 七和のことだから、息でもしてるはずだ。否、これは誰でもか。なんちゃって。
「ちょ、待っ、今から、美也とそっちに行くから」
 チョッ、マッとくれば、次はハッだな。こう、景気良く。あれ、違ったよ。
「いや、十分くらいで行ける。結構、近くに居るから」
 あら、亮ちゃんお出掛け? そう言えば、石岡さんが帰ってないとか何とか……ぅえぇっ?

 漸く目覚めた頭でも、逸る心を止められない。
 通話を終えた亮の身体を揺さぶり、萩乃ちゃんの安否を、今更ながら問質す。
「は、萩乃ちゃん居た?」
「うん。七和の部屋に居るって」
「えぇっ? なんでっ! なんで七和の餌食なんかにっ?」
 七和、貴様、私の大事な萩乃ちゃんに手を出したら、孫の代まで呪ってやる。
「とりあえず、ここから近いから、一緒に七和の部屋…み、美也?」
 齷齪と靴を履きかけたところで、亮に腕を掴まれ、冷静に言い放たれた。
「毛布では行けないから、服着ようね?」
 あ、そうか。そうだった。これでは、孫の代まで笑われるのは私です。きっと。  
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